いつからか、内耳の働きに影響を及ぼす乗り物が苦手になった。
簡単に言うとジェットコースターで乗り物酔いを起こすようになった。
名前は解らないが、小部屋に閉じ込められて椅子が揺れ画面がめまぐるしく変
わるアレもだめだ。
子供の頃は何度でも乗りたいくらい好きだったのに、いつからだろう?
思い出せるかぎりでは、二十代の頃、東京ディズニーランドに行きスペースマ
ウンテンに乗って以来だと思う。朝一番で「空いてるうちに」と乗ったのが仇
となり、何時間も気分が悪かったのだが、友人達をしらけさせてしまうのが嫌
で、黙って我慢していた記憶がある。それ以来、遊園地などに行って、酔うタ
イプの乗り物に皆が乗ろうとすると、
「乗ってきていいよ。あたし待ってるから。」
と言うようになってしまった。
そうなると、一緒にいる人達も気を使ってやめてしまうのだ。
小さい頃、大人と遊園地に行くと、必ず誰か女の人が、
「ここで待ってるから乗っていらっしょい。」
と言っていたあの光景が自分にすり変わってしまった。
数年前のことだが、熊本に仕事で行った時、大きな遊園地に隣接したホテル
に泊ったことがある。一緒だった人達は部屋で遅くまで飲んでいたのだが、私
は早く寝て、翌朝一人で遊園地に出かけた。ホテルの宿泊客はフリーパスポー
トがもらえたからである。遊園地は朝10時からの営業で、みんなとは11時に
ホテルのロビーで集まる約束だったので、1時間くらいは遊べると張り切って
出かけた。
冷え込んだ11月の平日朝10時、遊園地には私の他に客が誰もいなかった。
巨大なジェットコースターが『貸しきりですよ!』と微笑んでいたが、その後
一日酔った状態で耐える自信がないのであきらめ、自分が乗れそうなアトラク
ションを探すほうが大変なことに気付いた。
敷地は広大で、歩いているだけでも時間を消費するし、係員が各々の持ち場で
待ち構えている真ん前まで行って、どんなアトラクションかを観察して立ち去
るのもなかなか気まずい。幽霊屋敷に一人で入るほど興醒めなことはないし、
クルクル回る乗り物は論外だ。
だいぶ歩いて辿り着いたのが、正しい名前は忘れたけれど「南極館」だった。
冷凍された小屋の中を周遊し南極の寒さを味わうというものだ。
嫌な予感はしたが、時間がなくなってしまうのでとにかく入る。
係りのおばさんが、普通の冷凍室と同じ扉を外からカチャっと閉める。
背後から聞こえたその音でひどい恐怖を催し、薄暗い「南極館」の中を走る走
るの大慌てで、飾られた淋しげな熊だかの剥製が余計に切迫感を煽り、随分ひ
どい顔で外へ出たに違いない。係りのおばさんはニヤニヤしていた。
気を取り直して、「九州最大」というふれこみの観覧車に乗ろうとしたら、所
要時間が30分で、広大な敷地を横切って集合時間までにホテルに戻るには時
間が足らないのであきらめ、結局1時間で「南極館」しか利用できなかった。
ジェットコースターに乗ることができれば、もっと有意義な時間が過ごせたの
に、損な体質である。