答えは否である。
小さい頃、虫を半殺しにしたりしなかったろうか?
また、道ばたの犬猫の轢死骸に魅入られなかったろうか?
何らかの理由で泣いている他人を、堂々と眺めることもできたはずだ。
大人になってからそれらを出来なくなった。
心臓と胃の間くらいが痛んで、今ではそんなことはとても出来ない。
長く生きているうちに、肉体の苦痛、精神の苦痛をたくさん知り、それらを
思い起こすきっかけを避けることが必要となってくる。
加齢と共に感受性が鈍るのではない。むしろ逆に鋭くなったが為、むき出し
にするのが恐くなるのである。
中学生くらいの頃、ヨーロッパで起きたあるバラバラ殺人事件の新聞記事を
読んで、眠れなくなったことがあった。あの夜は今でも忘れられない。
それでも懲りずに10代20代と犯罪の記事に熱中した。
『切り裂きジャック』の文献を読みあさり、内外の有名殺人事件の記録等の
一番恐ろしい描写のところをよく拾い読みしたものだ。
どうしたことか、そんなに好きだったはずが、今では、あまりにも痛ましい
事件の記事など、辛くて耐えられないので読まないことにしている。
怪我をした動物がいると、助けられる状況でないかぎりは直視しないで逃げ
てくる。長い間見てしまえば、それだけ残像が焼き付いて離れないからだ。
子供の頃なら飽きるまで眺めていたはず。
だから、私の場合、感受性は鈍くならず、鋭敏になっているようだ。
子供の頃動物の屍骸に魅入られなかった人のことは知らない。