私は幸いにして物心ついてから大病を患ったことがない。
よって「病気よもやま話」は、気軽に口にできる類いの病気の話であり、過
去現在に重い病気を患った人には、笑い噺と思っていただきたい。
私は不整脈である。
子供の頃特に検査等で指摘されることもなく、20代までは気付かなかった。
音楽なんぞやっていると、とかく無軌道な生活を好む時期がある。そんな頃
に心臓の存在が気になって初めて不整脈を知った。
私の場合、疲れた時などに頻発するだけで重病に結びつく可能性も薄く、父
も同様なので、体質的に受け継いだものと思って気にしていない。
症状の重い人とは別の病名でもいいくらいの軽い不整脈だ。
小さい頃、夜寝ていると、何か胸騒ぎのような、胸が苦しい気がしてよく
目が覚めたものだった。恥ずかしい時とかショック時のような、胃の上のほ
うが詰まった感覚で、幼かったので心臓のせいとは思いもよらなかったが、
大人になってやはり寝ていて同じ感覚に頻繁に襲われて初めて、
「あの時の変な気持はこれだったんだ!」
とひらめいたのだった。
そういう時はたいてい期外収縮を起こしていたのである。
期外収縮とは、規則正しいはずの脈に全く違うリズムの脈が混じる症状で、
それが動悸とか胸苦しさを引き起こすことになる。
どうりで子供の頃、蕎麦殻の枕で眠れなかったのだ。
最近では枕に蕎麦殻をあまり使わないかもしれないが、30年くらい前、母の
実家に泊りに行くと枕は必ず蕎麦殻だった。
私は横向けに寝る習性があり、耳たぶから伝わった脈の鼓動で蕎麦殻が、
『ザク、ザク、ザザッ!ザク、ザク、ザク、ザザッ!』
とうるさくて眠れなかった記憶がよみがえってくる。
アレが期外収縮だったことは、つい最近記憶の糸を手繰っていて気付いた。
(わかるとは思うが『ザザッ!』の部分が期外収縮である。)
祖母の部屋でよく寝た思い出は、あの音に凝縮されている気がする。
小中学生の頃、寝る前にどことなく胃がムカムカする気がして、よく洗面器
を枕元に置いていたことも、今、書きながら思い出した。
当時の私は、寝る前にその日あった出来事を思い出して、『恥ずかし発作』
に襲われていたのだった。
自分の言動は毎日恥ずかしい、というのが辛かったものだ。
今から思えば、アレは単なる期外収縮による胸苦しさで、実は何ら恥ずるこ
とない生活を送っていたのかもしれない。
子供はこんな微妙な症状を具体的に言葉にする術を持たない。
どことなく心細い気分なのを、脈のせいだと疑うことなどできない。
なので、親御さん達。寝る前にやたらと反省する子がいたら、さりげなく脈
を見てみるといいかもしれませんよ。
そこでもし期外収縮があったら、そしてそれが病的な不整脈でないことがわ
かったら、大人になるまでお子さんに黙っていてもいいかもしれません。
何だかやけに反省深い人間に育つかもしれませんから。