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穴のあいた部屋 (2003.3/23)


 私の家は7階建てマンションの6階だが、2件隣の飼い猫がベランダ伝いに
通ってきていた。何年前からそうだっだのかは覚えていないが、写真に残さ
れている日付けから考えて、約5年間、ほぼ毎日猫は来ていた。
殆どウチの猫と言ってもいいほどに、その猫が我が家で長時間過ごしていた
理由は、飼い主が昼間働いていて不在なことと、親子二匹を飼っていた為、

縄張り的な意味で、親猫のほうが飼い主の家を出た、と推測している。

飼い主も最初は心配してベランダに柵を足して猫を閉じ込めようとしたが、
必死に逃走して想像もつかない方法で柵を乗り越えて我が家を目指す猫を哀
れに思い、自由に行き来できるよう柵を戻し、間にはさまれたお宅のベラン
ダを猫が通り道にすることに関して住人に承諾をとりつけたらしい。
「食欲がないようなので、そちらでも餌をあげてくれませんか?」
とキャットフードと猫用の皿も持ってきてくれた。
餌ももらえることになり、ますます猫は我が家にいついた。
夏は開け放したベランダの窓を夜中でも自由に出入りするが、冬は寒いので
そうはいかない。最初の何年かは、深夜にベランダに出たままの猫がどちら
の家にも入れなくて鳴くと困るので、お互い起きている時間に帰そうとして
色々工夫したものだが、途中から我が家で朝まで寝るようになり、私の枕元
の定位置で毎晩スースー寝息をたてたものだった。
やんちゃな雌猫で、早朝、寝ている私を起こそうとして飛び乗ったり、私の
口に前足を突っ込んでくる、頭に爪をたてるなど、夜中遅くまで起きている
私は万年寝不足状態だったが、今思えば愛しい思い出だ。
猫はこの2月、飼い主の引っ越しでいなくなった。
前もって知らされていたので突然ではないし、2月中バタバタと忙しかった
せいか、喪失感よりも、
「この忙しい時期に、猫のせいで寝不足が続いたら体がもたなかったかもし
れないから、いい時にいなくなったのかも...。」
と良い方向に気持を転換できた。執着はあまりしなかったつもりだ。
ただ、今でも、猫が絨毯に爪をひっかけながら歩いてくる音が聞こえてくる
のだ。我が家の廊下の絨毯がどういうわけか爪に引っかかるらしく、
「プツ、プツ」という音がしたものだった。
また、風で揺れているベランダの植木鉢が猫に見えることもよくある。
いないとわかっているはずなのに、今だにハっとさせられてしまう。
猫がいなくなってから匂いや毛が完全に消えるまで1ヶ月かかった。
歩いて5分程の場所に引っ越しただけなので、死んでしまったわけではない。
会いにいこうと思えばいつでもいけるが、猫を飼ったことのある人ならわか
るであろう。猫はそういう生き物ではない。
会いにいった私を、
「久しぶりですね!よく来てくれました!」
と認識できる生き物ではないのだ。
猫にとって私とは、私の家とセットになって初めて『私』なのである。
だから会いには行かない。


どうしよう 
どうしようもないか
大きな深い穴が開いた
いつから穴は開いてたの?
どこから大きくなったの?
どうして  どうして  どうして

 (1991年の作品「穴のあいた部屋」より。)

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