音楽を職業とする人間にとって都合が悪い病気は耳に関するものだ。
現在すっかり完治しているからこそ書くことができるのだが、5年くらい前に
右耳に突発性難聴を患ったことがある。原因は風邪の時の中耳炎の治りが悪か
ったせいもあるし、ヘッドフォンの使い過ぎや、何らかの理由で血圧が下がり
過ぎていた、など多くのことが重なったものだ。
突発性難聴の主な症状は勿論耳の聞こえが悪くなることだが、初期症状として
めまいが頻繁に起こることも重要なのだ。
しかし、私は普段から温度差等で頭がクラっと来ることがあり、軽いめまいを
気にも留めていなかったし、中耳炎を治療した直後だったので、片耳の聞こえ
が多少悪くても時間が経てば治ると思っていた。
そんなある日、テレビをぼんやり見ていると、ものすごく音痴の歌手が出てい
ると思ったのを始まりに、全ての音楽の音程が変に聞こえるようになる。
さすがに慌てることとなったが、中耳炎の治りがあまりにも悪かった為、近所
の耳鼻科に不信感があり、もう少し理解のある先生を、と、知り合いに相談し
て隣町の耳鼻科を紹介してもらった。
聴力検査の結果、右の低音域が殆ど聞こえてないことが判明し、毎日注射を打
つこと2週間、やっと音程がまともに聞こえるところまで回復した。
なぜ片耳が悪くなると音程がおかしくなるのか、細かいメカニズムをここで説
明するのも難儀なので省かせていただくが、
「片目を隠してしまうと、ペンのふたをうまくしめられない」
ということを思い出してみると想像しやすいだろう。
難聴については掘り下げてみると必ずしもこの例とそっくりではないので、
興味を持った人は各自でお調べいただきたい。
さて、回復したとはいうものの、内耳という器官は非常に複雑で、注射を打っ
たからといって一朝一夕に元通りになるものでなく、その後3年くらいは左右
の耳に相当の差がある状態が続いた。
普段はそれほど意識しないのだが、うっかり電話を右耳で受けてしまうと、あ
まりの聞こえの悪さに愕然としたものだった。
音楽を生業とするのに、耳が悪いと公言するのも損だから、と、あまり騒ぎ立
てないことに決め、ストレスも多少の要因なことから、気にしないことも大切
と、半ば忘れてしまいながら暮らしていた。
現在はすっかり良くなっているのだが、いつを境に完治したかははっきりわか
らない。上記の理由で耳が悪いことを意識しないようにしていたからだ。
耳はもう完全である。むしろかなり耳がいいとさえ言えるほどだ。
それでも私は人の会話がよく聞き取れず、生返事をしたり、全く違うことを答
えたりして、相手に複雑な顔をさせてしまうことが多い。
先日も大手古本チェーン店の若い店員さんの言葉を聞いて、
「しまった!タイ語?なぜレジでこんな目に?」
と思ってうろたえたことがある。
何度も言うようだが、暗記した言葉を機械的にくり返してはダメ!
伝えようという意志がこもっていなければ何も伝わらないのだ。
また人のせいにしてしまった...。