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戦争 (2003.6/11)


 私の家のベランダの植木鉢に蟻の巣がある。6階なのだが、どこから移って
きたのか、また、これから先どこかへ移る気があるのかどうかわからない。
毎日何を食べているのか知らないが、飢えれば他所へ行くだろうから、6階の
ベランダにも蟻の巣一つを養うだけの食べ物があるのだろう。
この蟻達がしばしば私の寝ている真横を大行列する。
私はふとんで寝ている。蟻の目的は私ではなく、もっと奥の何かを目指してい
るのだが、たまに方向を間違えるのがいて、私の体に上ってくるのだ。
無駄な殺生はするまいと思っていても、もぞもぞと体を這い回られると無意識
につぶしてしまうことが多い。
また、心地よい眠りを何度も破られたりすると、つい頭に来て、1〜2匹を見
せしめにつぶし、蟻の行列に落としてみることもある。
興味深いのはこの時の蟻の反応だ。
仲間の死骸が突然降ってきた場所の蟻は、まずひどくうろたえるが、すぐ冷静
になり後ろの仲間に近寄って何かを伝える。
そうすると伝えられた蟻が別の蟻にまた伝えてをくり返していき、みるみるう
ちに行列は元の方向に退散するのだ。
そのようすはとてもおもしろく、犠牲になった蟻には申し訳ないが、眠りを壊
されたのも忘れて熱心に見入ってしまうことが多い。
いつも行列を阻止してしまうので、あの蟻達が何を目指しているのか永久にわ
からないが、蟻には地球上のどこへでも移動する権利が常にあるのだ。
人間の基準だけで『この土地は私が買った。私が賃貸契約をした。』と言って
みたところで、蟻には関係ない。
蟻が何らかの理由で大移動するのをとがめる権利を何人も持たない。
しかし、人間を含む肉食動物のほとんどが、食物の確保のため縄張りを持つと
いう本能を持っている。
蟻も肉食動物。故に私と縄張りを奪い合い、大きい私が勝つだけだ。
また、蟻が数において勝っていれば人間が負ける場合だってあるのだ。
 何匹かの蟻を軽くつぶしてしまう時、私は戦争を思い浮かべる。
蟻が隣人として暮らしているくらいは構わないが、私に上ってくれば殺す、と
いうことが戦争なのだろうか?
大勢殺す気はないといって見せしめに1匹殺すのは正当な行為だろうか?
蟻が私の領域を犯さないという基準は私が作っている基準であって、蟻が作っ
た基準ではない。 それは蟻にとって公平だろうか?
生物の当然の本能としてその時強い者が弱い者を追い出すことをくり返す。
公平でなくとも、それが自然の摂理だ。
 戦争の悲惨な写真を見る。各々が全く違った自己を持ち、多様な人生を苦労
して送ってきたはずなのに、一瞬にして物言わぬ骸になってしまう。
2〜3ミリの小さな蟻を軽く殺してしまう時、複雑な生を一瞬にして消してし
まうことを思い浮かべる。
あの蟻にも、食べ物の好き嫌い、将来の不安、恋をする、ケチだったり気前よ
かったり、病気の悩み等があっただろうか?
あの蟻は、人間によじのぼって、他の蟻に、
「危ないからやめろ」
と言われたりしたのだろうか?
蟻は必ず仲間の死骸を持って巣に帰っていく。
葬式をするのだろうか?それとも食べるのだろうか?

地球から戦争がなくなることはない。
蟻の死を観察しながらそういうことを考えている。

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