夕方の住宅街を歩くと様々な料理の匂いがする。
カレーの匂いや煮物の焦げた匂い、揚げ物の匂い、アパートが多いところだ
とインスタントラーメンのスープの匂いがしたりもする。
私はあの時間帯が怖い。
夕陽の美しい日ならば、どうやってその美しさを心に焼きつけようかと慌て
ふためいたり、じっと眺めているわけにも行かず去り難く切なくなったり、
「今日という日は二度と来ない」
などと、メランコリックになったりする。
曇った日ならば、家庭料理の匂いが心臓を直撃する。
小さい頃、叱られるほど夕方遅くまで外で遊び、
晩御飯のいい匂いのする家に恐る恐る帰った思い出。
叱られて泣きながら夕食を食べた米のしょっぱさ。
泥だらけだった為夕食の前に風呂へ直行だった風呂の熱さと空腹の思い出。
好きなおかずの匂い、嫌いなおかずの匂い。
既にお母さんが亡くなった人、実家を出た人、料理を自分でしなければなら
ない人ならば、わかるであろう。
家に帰ったら料理の匂いがする、といった幸せはもう永久に失われたのだ。
夏の夕暮れ時ならば、開け放たれた窓からテレビの音がもれてきたり、だん
らんの笑い声が聞こえてきたりする。
そんな時、胸が痛い。
この季節、夕方の住宅街には要注意だ。