私は意外と歩行中に異物を踏まないタチである。
道路を横断中のミミズやナメクジなんぞは真っ暗でも目ざとく見つけてよけ
るし、犬の糞も踏まない。ましてや人の吐瀉物なんてもっと踏まない。
ただし、歩き方に難があるらしく、段差でつまずいたり、家の中では裸足な
ぶん、つまずくというよりぶつけることになり、足の指の爪はしょっちゅう
割れて変色したりしている。
さて、先日のこと。近所の大型スーパーの家庭用品のフロアで書店に立ち
寄ると、白い床に点々と茶色い足跡がある。
足跡といっても、全面べったりでなく、踵程度の面積で、目ざとい私がやっ
っと見つける大きさのものだった。
「む?もしや糞?」
こうなると本選びどころでなく、糞足跡を辿ることに全精力を注ぐ。
案の定、糞足跡は女子トイレに続く。
ついでにトイレに行きたくなってもいたので、ためらわずトイレを視察。
二つしかない個室の一つに、和式便所のお尻側に全く便器にかかってもいな
い堂々たる糞が放置されていた。
「やはりこれか!和式に慣れない子供か?」
「用便後に立ち上がって流そうとしたら、便器外に物体が横たわっているの
を見つけ、驚いてよろめき、靴の踵で踏んでしまい、他人がいないのを見届
けて、一目散に退散か?」
と推理をたてる。
私は、無事な方の個室に入り用便を済まし、
誰も見ていないのを確かめてから、無表情にトイレを出る。
あの糞の持ち主が自分だとわずかにでも疑われたくないからだ。
今度はトイレ側から糞足跡の行き先を辿ってみることにする。
先ほど初めて足跡を見つけた書店の真ん前を通り過ぎ、金物売り場に行き、
歩数を重ねるごとに茶色は薄まって、ほとんど見えないほどだ。
金物売り場?子供でなくて、ばあさんか?
と思いきや、糞足跡は続く。今度は文房具のコーナーに立ち寄り、
玩具売り場で足跡は確認不可能になった。
計算高い子供に違いない。
なぜなら、玩具売り場は書店のまとなりに位置していて、
書店とトイレはとなりあっている。
トイレから玩具売り場に戻ろうとした場合、
書店と反対側にある金物売り場を経由すると遠回りになるからだ。
この子供は母親に連れられて来店し、玩具売り場で便意を覚えたのだろう。
玩具売り場からトイレがすぐ見えていたので、
「トイレはあそこだから行ってきなさい。」
と、まだおむつのとれない弟か妹を連れた母親に言われたに違いない。
母親が子供を一人でトイレに行かせるとしたら、小学生だ。
小学生女児は、用便後に驚いて糞を踏み、一目散に逃げ出す。
しかし、それを母に見つかると怪しまれるので、
母が見ていないのを確認して、ひとまずトイレと玩具売り場から遠ざかる。
遠回りして金物売り場の1000円のアルミ鍋なんかをさりげなく触ったり、
文房具売り場でキャラクターもののシャープペンをいじり、
定規の値段なんかを確認して、
「あ、お母さんがいた!ここだったか。」
という顔で玩具売り場に戻る。
これだけの子供ならば糞足跡を自分がつけていることも認知していて、
足跡が判別不可能になるまで母に近づかないことにも気を配り、
数歩歩いては自分の後ろを振り返り、茶色が消えたのを確認したであろう。
そして何食わぬ顔で、弟や妹、母の元へ帰ったのだろう。
なぜ、この女児におむつのとれない弟か妹がいるのかと言えば、
下の子がおむつのとれた年頃の子なら、母親が、
「おねえちゃんと一緒にトイレ行こうか。ついでだもんね。」
と、全員でトイレに行くからだ。
その場合、女児が糞を便器外に放出してしまったとしても、
母親がトイレットペーパーでひょいとつまみあげ、流すに違いない。
靴についた糞も、そのまま車に乗られてはたまらないので、洗面所で水に浸
したペーパーなどでしつこく拭くであろう。
母親が人格者でない場合は知りません。