80年代の始まりは、何と言ってもMTVだ。
美大受験の為、昼間は高校、夜は美術系の予備校に通っていた私は、
夜中にデザインの課題をやりながらヘッドフォンでラジカセを聴くのが日課
だったが、週末にはMTVがある。
金曜日は『Sony Music TV』、土曜日は『ベストヒットUSA』だ。
この頃になると、流行音楽に対して、
「レコードを買うほど好きではないが、映像で見るなら好き。」
という現象が私の中に出てくる。
しかも、家庭用ビデオデッキが普及し始めたところだったので、MTVで録画
しておく音楽と、レコードを買ってみっちり聴く音楽と分けていたものだ。
レコードのほうでは、ペンタングルなどのブリティッシュ・フォークに夢
中で、熱心にギターでコピーしたり、曲を作ってカセットに録音したり、と、
高校生だった自分の時間の使い方の上手さに驚いているくらいだ。
この頃は、近所のテニスクラブに両親の家族会員として所属し、
レッスンを受けたり、朝から日が暮れるまで友達と打ちまくる一方、
英会話用LLカセットレコーダーで、自作の曲を多重録音し、カセット数本ぶ
んに収め、友達に聴かせていた。
架空のCMソングだの、物理や数学の公式を連呼する歌、友達のお父さんの名
前を歌いこんだ曲もあり、
「ほとんど今と同じ活動じゃないか。」
とニンマリする思いだ。
さて、MTVの話に戻るが、イギリスに短期留学していた友達が、ロンドン
から持ち帰ったシングル盤に、カルチャー・クラブの
『Do You Really Want To Hurt Me?』(82年)があった。
「今ロンドンではこれが一番ハヤってんのよ。」
と聴かせてもらった。いい曲だな、と思ったまま忘れてしまい、
後々、MTVでこの曲を見て改めて気に入り、アルバムを買った。
この年の象徴だった作品に、マイケル・ジャクソンの『スリラー』もある。
映像のないヒット曲などあり得ない、といった時代の幕開けだ。
また、今レコード棚を眺めていると、私にとって80年代初頭、最も重要なレ
コードとの出会いも思い出す。
エレキベースをどうしても弾いてみたくなったダイアナ・ロスの『Diana』。
演奏とプロデュースはシックだ。
70年代後半からシックは知っていたが、このアルバムでのベースプレイは、
シックのヒット曲より格段おもしろく、それまで熱心に練習していたギター
はどうでもよくなり、ベースに夢中になってしまった。
そして、トーキング・ヘッズの印象的なアルバム『Remain In Light』や、
町中どこでもかかっていると言っていいほどヒットしたトムトムクラブ。
とくにトーキング・ヘッズの初期4枚はいまだに愛聴盤だ。
U2も『War』(83年)までの初期の3枚に夢中になったが、引っ越しでだい
ぶレコードを整理せざるおえなく、今は一枚も残されていない。
こんなふうに80年代の中でもファッションや音楽に一番勢いのあった時期
に美大に入学することになり、70年代ロックはいつのまにか奥に移動した。
忙しかった高校生の頃と較べ、大学生活には時間的余裕があり、
アルバイトをして、そのお金を全部レコードにつぎ込んだ。
大学へ向う電車の乗り継ぎ駅だった町田では、ディスク・ユニオンに寄れる
日は必ず寄り、ニュー・ウェイヴものを片っ端から買い集めていった。
お気に入りはラフ・トレードやクレプスキュール、名前は覚えていないが、
様々なイギリスのインディーズ盤などで、かなり揃っていたと思う。
後に引っ越しで邪魔になり、殆ど売ったり譲ったりで、今は残っていない。
校則の厳しかったカトリックの学校から一変して、自己顕示欲の激しい人
が集まる美大へ。おりしも時代はバブルへ。巷は女子大生ブームでもあった
が、美大生には関係ない。日焼けが嫌いになりテニスやスキーはやめた。
奇抜な髪型、服装とも何でも試すことができた。
バイトをし、大学も休まず、友達と何時間も喫茶店で過ごし、レコードを聴
きまくり、長電話もし、どうしてあんなに時間があったのだろう。
10代20代は時間が無限にあるように思える年頃だ。
実際無限だった。
30歳を過ぎると、一日がどうしてこんなに短いのだろう。
しかし、悲観的になりはしない。心から。
あの頃ほど長時間録音物に没頭できないし、
そもそも聴きたい録音物もそうたくさん見つかりはしない。
友達と喫茶店でしゃべりたい事柄も殆どない。
長電話なんてうんざりである。
70〜80年代と思うがままにレコードを聴いてきた。
音楽家になりたいと思う気持ちより、音楽が何よりも大好きだった。
2005年の今、年をとったせいで、現在の流行音楽を楽しめないのだろうか?
確かに、若さならではのエネルギーを感じる音楽は、若者のものである。
でもだとしたら、若き頃のビートルズ、ビーチ・ボーイズ、若きモータウン、
若きアレサ・フランクリンが今でも鑑賞に耐えるのはなぜだろう?
60年代から80年代半ばまでがおもしろ過ぎたのだろうか?
私の好きな音楽は大ヒットした流行音楽だ。
マニアックなものに食わず嫌いではなく、
気に入った作品だってたくさんあるにはあるが、
時代性を表現し、圧倒的に同世代の共感を得ることのできる曲、
上っ面だけでない、押さえきれないエネルギーの爆発が好きだ。