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  バルタンと名付けた蝉(2005.8/11)


 8月初旬、東京は蝉の羽化大ラッシュだ。
公園や街路樹などよく見ると、蝉の抜け殻がたくさん見つかるだろう。
また、夜9時〜10時くらいに注意していれば、
羽化中の翡翠色のしっとりした蝉を見つけることができるはずだ。
夜目に発光するかのように地面から1mくらいのところにたいていある。
 先日、夜8時過ぎに家の前の道路をさまよう蝉の幼虫を保護した。
すぐ近くに止まらせてやるべき良い木も見当たらない。
放っておけば車に轢かれるだけなので、羽化観察も兼ねて、
我が家のベランダのグミの木にとまらせてみた。
樹齢7〜8年になる安定した木で、低く剪定してあるので、
蝉が羽化時に好む、低い場所の小枝も十分だ。
本能で枝を選ばせようと、土の上に置くと、
「ああもう!背中が割けそう!」
とばかりに大急ぎで昇り、小枝の先端で羽化開始。
デジカメで幼虫の写真をいそいそととり、
あいにく夕食時で、お腹もすいていたので、
羽化自体は2時間ほどで終わってしまうことを知らずに、
「とりあえず最初の写真とったから晩メシ食ってこよう」
と出かけてしまった。
ワクワクしながら帰宅すると抜け殻しかない。
一番見たかった翡翠色を逃したのはしょうがないにしても、
調べたところでは、羽根が完全に乾いて飛び立つまで一晩かかるはず。
不審に思い、暗いベランダをよく探すと、
植木鉢の影に落ちていた。
そぉっと拾って適当な枝にとまらせる。
羽根は片方だけまっすぐ伸び、
もう片方の羽根は折り畳まれたままだった。
色は既に翡翠色でなく茶色で、柔らかくもない。
ということは、不完全な羽根のまま固まり始めてしまったということだ。
ピンセットなど使って伸ばしてみては?と思ったが、
それで羽根を傷つけてしまったら取り返しがつかない。
翡翠色の時点ならまだ柔らかかったはずで、
その時に小枝から落下したのかもしれなく、
食事にでかけずに見守っていたら、
すぐに助けてやれたかもしれない、と悔やむが、しょうがない。
飛び立つ予定の翌朝まで自然にまかせることにした。
朝起きてみたら、やはり、
昨晩のまま片羽根は折れ曲がって固まっていた。
これでは飛べまい、と、『バルタン』と名付け、
自然死するまで見守り、その後埋めてやろうと考えていたら、
目を離したすきに飛び立ったようだ。
多分あの羽根では飛ぶのは無理だし、
子孫を残す相手も見つからないであろう。
幸い、我が家のベランダの下には1階の住人の緑豊かな小さな庭がある。
バルタンはあそこに落ちて、蟻達に食われ、
土に還っていくのだろう。

後日、公園の羽化名所を改めて明るい時に観察してみると、
羽化しないまま死んでいる幼虫や、
羽化途中で食べられてしまったのか?成虫の羽根も散乱している。
ということは、約7年間地中で暮らし、やっと地上に出てきても、
成虫になれる確率はそう高くないということ。
バルタンにしても、地中から出て手頃な木に直行せずに、
アスファルトを彷徨って人間に見つかってしまう時点で、
多分、完全な成虫になる資格が備わっていなかったのだと思う。

蝉の羽化ラッシュも時期的にそろそろ終わりであろう。
バルタンには勉強させてもらった。

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