読後感はくっきりとここから物語が始まるんだなと感じた。
長い夜にふと時計を見ると、午前四時で、今が一番暗いけど、それはもうすぐ終わる。
だけどしばらくは闇が辺りを支配しているだろう。夜明けまではまだ闇を溶かしていかなくちゃいけない。
そんな感じだった。
カードローンを通じて、現代社会の持つ歪みを描きながら、一人の女性の輪郭を徐々に明確していっているような感じを受けた。それは何も特別な事ではないんだ、僕たちだって一つ風向きが変われば、「彼女」のようになってしまうんだ。そう思えた。
つまり現代人が社会にどのような状況に置かれているのか、それがとても理解できる。
ただ普通の幸せがほしい。彼女の痛切なその願い、そして孤独が人を「火車」に変えてしまったのかもしれない。
ミステリとして、当然傑作と呼べるものだけど、この「火車」はミステリという形式を取るのが、最も「彼女」を描ききる事に適した形式だから、偶然そうなってしまったように思えた。ただ物理的トリックを解き明かすだけではなくて、人が持つミステリ性を解き明かす物語もミステリと呼べるんじゃないかなと僕に強く認識させてくれた作品である。
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