今までの辻仁成の作風とはちょっと違ったものがあった。
ノンフィクション風のものであったからかもしれないけど、今までのフィクションとは違い、どこか諦観したようなそんな雰囲気は一切なく、非常に温かみが全体を包み込んでいる作品だと思う。
「死」というテーマに正面から取り組みながらも、主人公が「白仏」を造ろうと決意するまでの描写は非常に迫力があり、一気に読ませられた。
フランスのフェルミナ賞外国文学賞を受賞した作品である。僕たち日本人では認識できない日本的な特徴をこの作品は備えていると思う。
「詩的で残酷であること・つきまとう死へ思い・罪悪感の影」という表現で、三島由紀夫との共通項を見出したのはフェルミナ賞の審査員ディアンヌ・ド・アルジュリー女史の言葉である。
しかし、この本の最大の特徴は現代の文学がよく題材にしている「大都会の憂鬱、リアリスティックなセックス描写」からかけ離れたことであろう。つまり、スタイルがクラシックで描写が綺麗なのである。作家のイレーヌ・フラン 日本文化研究誌「ダルマ」ドミニク・パルメの両女史もこの点を指摘しているし、僕もこれはとてもクラシックなスタイルだなと感じた。しかし、ただクラシックだけなわけでなく、そこには現代のキーワードである「ヒーリング」的な要素も関わってきていると思う。
つまり、「心の静けさへのプロセス」を描いた作品とも言え、それを非常に繊細に、美しく描いた作品であろう。
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