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 ◇「白仏」 辻仁成 (文春文庫)  ◇

+-+- あらすじ -+-+

 筑後川下流の島に生まれた稔は発明好きで戦前は刀鍛冶、戦中は鉄砲修理、戦後は海苔の加工機製造などをしてきたが、戦死した兵隊や亡き初恋の人、友達、家族の魂の癒しのため島中の墓の骨を集めて白仏を造ろうと思い立つ。

 

 明治大正昭和を生きた祖父を描くフランス・フェルミナ賞外国文学賞を日本人初受賞作。

+-+- 感想 -+-+

 今までの辻仁成の作風とはちょっと違ったものがあった。

 ノンフィクション風のものであったからかもしれないけど、今までのフィクションとは違い、どこか諦観したようなそんな雰囲気は一切なく、非常に温かみが全体を包み込んでいる作品だと思う。

 「死」というテーマに正面から取り組みながらも、主人公が「白仏」を造ろうと決意するまでの描写は非常に迫力があり、一気に読ませられた。

 

 フランスのフェルミナ賞外国文学賞を受賞した作品である。僕たち日本人では認識できない日本的な特徴をこの作品は備えていると思う。

 「詩的で残酷であること・つきまとう死へ思い・罪悪感の影」という表現で、三島由紀夫との共通項を見出したのはフェルミナ賞の審査員ディアンヌ・ド・アルジュリー女史の言葉である。

 

 しかし、この本の最大の特徴は現代の文学がよく題材にしている「大都会の憂鬱、リアリスティックなセックス描写」からかけ離れたことであろう。つまり、スタイルがクラシックで描写が綺麗なのである。作家のイレーヌ・フラン 日本文化研究誌「ダルマ」ドミニク・パルメの両女史もこの点を指摘しているし、僕もこれはとてもクラシックなスタイルだなと感じた。しかし、ただクラシックだけなわけでなく、そこには現代のキーワードである「ヒーリング」的な要素も関わってきていると思う。

 

 つまり、「心の静けさへのプロセス」を描いた作品とも言え、それを非常に繊細に、美しく描いた作品であろう。

 

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