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 ◇「ドラキュラ公―ヴラド・ツェッペシュの肖像―」 篠田真由美 (講談社文庫)  ◇

+-+- あらすじ -+-+

 何十万もの人間を生きたまま串刺しにしたとされるワラキア公ヴラド。

 その残忍さゆえに小説「吸血鬼ドラキュラ」のモデルとなった男の真実の貌とは?

 強大なオスマン・トルコ帝国を相手に孤独な戦いを挑み、過酷な時代を疾風のごとく駆け抜けたもう一人の『織田信長』の実像を人気の女性作家が描く異色長編。

+-+- 感想 -+-+

 ヴラド・ツェッペシュ。

 強大なオスマン・トルコとの戦いに勝利した英雄であるが、ドラキュラのモデルとして有名で、残虐性のみが突出してしまった不幸な傑物である。

 その一生涯を追った作品で、処刑場面とかはグロテスクであったけど、それ以外はヴラドの生涯が波乱万丈であったからでもあるが、非常に緊迫した物語として、テンポが良かった。物語としては非常に面白かった。

 

 ただし、筆者本人の『あとがき』が「個人的」にはよろしくなかった。

 この本はヴラドの悪いイメージを払拭しようとしているらしい。確かにヴラドの残虐性ばかりが有名であるから、多少の緩和にはなったが、それでもこの本では様々な部分が省略されている。串刺しの処刑は確かに絵になるが、ヴラドは貴族に対して、斬首の刑を主に行ったがそれが触れられてないし、また内政に関する記述が少ないのも気になった。ヴラドの生涯を綴ったのだが、魔術の存在や近習の行為がフィクションであるので、リアリティを失っているのも残念。あとは「吸血鬼ドラキュラ」の作者ブラム・ストーカーもちょっと可哀想かもしれない。

 

 しかし、個人的にはこの時代のオスマントルコ・ワラキア・モルダヴィアなどの諸国間などはわかりやすかった。

 

 総じて言えば、フィクションとして割り切れば、非常に面白い作品だったが、あとがきで「ヴラド・ツェッペシュの肖像」を描いたと言われると小首を傾げてしまう。もう少し、ヴラドの温和な部分を描くべきだった。

 

 この時代のワラキア・オスマン・トルコやモルダヴィアに関する考察が光るのはやはり賞賛したい。

 

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