ヴラド・ツェッペシュ。
強大なオスマン・トルコとの戦いに勝利した英雄であるが、ドラキュラのモデルとして有名で、残虐性のみが突出してしまった不幸な傑物である。
その一生涯を追った作品で、処刑場面とかはグロテスクであったけど、それ以外はヴラドの生涯が波乱万丈であったからでもあるが、非常に緊迫した物語として、テンポが良かった。物語としては非常に面白かった。
ただし、筆者本人の『あとがき』が「個人的」にはよろしくなかった。
この本はヴラドの悪いイメージを払拭しようとしているらしい。確かにヴラドの残虐性ばかりが有名であるから、多少の緩和にはなったが、それでもこの本では様々な部分が省略されている。串刺しの処刑は確かに絵になるが、ヴラドは貴族に対して、斬首の刑を主に行ったがそれが触れられてないし、また内政に関する記述が少ないのも気になった。ヴラドの生涯を綴ったのだが、魔術の存在や近習の行為がフィクションであるので、リアリティを失っているのも残念。あとは「吸血鬼ドラキュラ」の作者ブラム・ストーカーもちょっと可哀想かもしれない。
しかし、個人的にはこの時代のオスマントルコ・ワラキア・モルダヴィアなどの諸国間などはわかりやすかった。
総じて言えば、フィクションとして割り切れば、非常に面白い作品だったが、あとがきで「ヴラド・ツェッペシュの肖像」を描いたと言われると小首を傾げてしまう。もう少し、ヴラドの温和な部分を描くべきだった。
この時代のワラキア・オスマン・トルコやモルダヴィアに関する考察が光るのはやはり賞賛したい。
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