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 ◇「コンビネーション」 谷山由紀 (朝日ソノラマ文庫)  ◇

+-+- あらすじ -+-+

 契約金一億円で、即戦力と期待された左腕のスーパールーキー・岡野が入ったチームには、三年前にドラフト5位で入団した名倉という選手がいた。常に要領よく、敷かれたレールに乗っていた岡野の目には、名倉はただの不器用な男としか映らなかったが……。

 六人のチームメイトと一人の少女の目を通して名倉の成長を描いた、すべての野球狂に送る珠玉のハートフル連作短編。

+-+- 感想 -+-+

 名倉が最終的には主人公だけど、この名倉を主人公にすると、たぶん、まったくキャラが立たないだろう。

 だから、六人のチームメイトと一人の少女を通して描かれている。

 しかも、その六人と一人の少女はそれなりに名倉というものへの肩入れ、ライバル意識、苦手意識などで、名倉とコミットしている。そのことで非常に名倉のキャラが立っていたと言えるだろう。

 

 谷山由紀の作品はこれで2作品目だけど、とてもハートフルでありながら、悲しみも同時に内包しているように思える。特に最後の短編である「エレベーターボーイ」は野球から離れて、人間の『名倉』がうまく描かれているように思えた。もっともナレーターが野球選手じゃないって事が大きいだろうけれど。

 

 野球を通じた喜怒哀楽。

 名倉のストイックなまでのその努力の姿が、彼らをどこに導いたのだろうか?

 普通の人間だからこそ、ナレーターたちの思いに共感でき、名倉の姿に感じ入れることができたのは谷山由紀ならでは構成力と筆力と言えるだろう。本当に普通の人が陥る危険性がある穴を描くのが上手な作家だなと思う。

 

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