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 ◇「悪者見参」 木村元彦 (集英社文庫)  ◇

+-+- あらすじ -+-+

 「世界の悪者」にされNATOの空爆にさらされたユーゴ。

 

 ストイコビッチに魅せられた著者が旧ユーゴ全土を歩き、砲撃に身を翻し、劣化ウラン弾の放射能を浴びながらサッカー人脈を駆使して複雑極まるこの地域に住む人々の今を、捉え、感じ、聞き出す。特定の民族側に肩入れすることなく、見たものだけを書き綴る。

 

 新たに書き下ろした追章に加え、貴重な写真の数々。

 「絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ」

+-+- 感想 -+-+

 僕たちはユーゴから距離的にも文化的にもとても離れている。

 だから、彼らの実情はマスコミを通じてでしかわからない。

 だが、そのマスコミが公正な立場で、そして正しい方法でユーゴの実情を放送しなかったら、どうなるだろう?

 この本ではマスコミに対する痛烈な批判を内包していると思う。

 視聴率獲得のために、重大な事実も故意に放送されない現状。それを赤裸々に語っていた。

 

 フィールドワークでユーゴを歩き回り、バルカンの火薬庫の現状を、サッカーを通じて、描き出す。そこには民族同士の憎みあいが存在したのではなく、憎みあわされたものたちの姿が多かった。そして絶望的な現状を前に、彼らはサッカーに希望を見出していた。

 これほどまでにこの国ではサッカーを愛しているのか…

 「政治とスポーツは別だが、表裏の関係でもある」このユーゴで人の希望を背負ったプレイヤーたち、そして希望を託した民衆たちの悲哀が非常に僕は辛かった。

 

 日本人はあまりにも国際的意識が乏しかったからだ。

 是非ともユーゴの現状に興味のある人は読んでもらいたい。サッカーファンも読んでもらいたい。この本は雄弁に僕たちに話し掛けてくるだろう。

 

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