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 ◇「幻色江戸ごよみ」 宮部みゆき (新潮文庫)  ◇

+-+- あらすじ -+-+

 盆市で大工が拾った迷子の男の子、迷子札を頼りに家を訪ねると、父親は火事ですでに亡く、そこにいた子は母とともに行方知れずだが、迷子の子とは違うと言う……(「まひごのしるべ」)

 

 不器量で大女のお信が、評判の美男子に見初められた。その理由とは、あら恐ろしや……(「器量のぞみ」)

 

 下町の人情と怪異を四季折々に辿る12編。切なく、心温まる、ミヤベ・ワールドの新境地。

+-+- 感想 -+-+

 宮部みゆきの時代小説の代表格茂七親分シリーズとは別だけど、舞台は深川。

 茂七親分らしき人も出てくるけれど、たぶん別物だろう。

 誰か特定の人物が核になるわけではなく、完全に一編一編が独立した物語になっている。

 

 しかし、だからと言って、江戸時代の庶民の心情が、茂七親分シリーズと比べて劣っているってわけではない。

 うまく、怪異と絡めて、描かれている。

 岡引側からの切り口ではないからか、事件性があっても、明確な解決を迎えないで終った話もある。

 しかし、この物語は江戸に住む人々を怪異を通じて物語ったものだと思う。

 様々な立場から描かれているため、ある意味、茂七親分よりも江戸時代の庶民の生活が登場人物を通じて生々しく、描かれていると思う。

 

 短編集の中で「首吊りご本尊」は非常にインパクトのある話だった。

 温かいけれど、ほんの少しだけぞっとする話。

 ある奉公人が丁稚先から逃げ出し、連れ戻された夜、大旦那から聞かされた話は彼を知らずのうちに変化させていた。その変化と大旦那の話の絡み具合が微妙なバランスの上で成り立ち、一層掛け軸を奇妙な温かさをもって存在感を示させたのが見事だと感じた。

 

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