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 ◇「クラウディ」 辻仁成 (集英社文庫)  ◇

+-+- あらすじ -+-+

 「ベレンコのように亡命したいって言っていたけれど、面白そうね。」

 ナビは抱き合った後、服を着ながら僕にそう告げた。

 亡命――この響きは僕を捕えて離さない。

 人は誰でも一度は平凡な日々からの離脱を夢見る。

 あの日ベレンコ中尉が日本に亡命してきた。

 今、30歳を迎えようとしている僕の亡命劇はまだ始まってさえいない。

 …青春の焦燥をリリカルに描く長編小説。

+-+- 感想 -+-+

 現実では何者でもない自分。

 子供の頃に描いた夢、憧れた未来を置いてきぼりにして、ただ一日を過ごしていく。

 そうして二十代が終ろうとしている今、鏡に映る自分の姿に主人公は愕然とする。

 彼の中のベレンコは確かにまだ存在した。しかし、彼の中のベレンコはまだ飛翔していない。

 

 自分を偽っていた主人公。

 絶望の淵で、青春が終る間際で、彼は自分を変えようと必死にもがたクロニクルである。

 大都会東京が生み出す孤独の中で、「亡命者」を夢見る人間たちの想いが交錯する。

 現代日本が抱える闇をうまく描き出していると思う。

 そして、人間の基本的な謎。

 人はどこから来て、どこへ行くのか?

 という疑問に真っ向から主人公が向き合っているのがいい。

 

 「アナタノカケラヲウメタイ」

 ドキリとしたフレーズだった。

 物悲しくも、尊い言葉のように思えたからだ。

 

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