まず、この作品が賛否両論で割れた作品であるという事に関して、僕はそれも無理はないかなと思った。
長編推理小説と書いてあるけれど、ミステリと断言してしまうにはいささかSF色が強かったし、ミステリ的な部分があったにしろ、それがメインであったかと問われれば、首をひねらざる得ない。
つまり、推理小説として読むには、多少、厳しい面があるというのは事実だろう。
ただ、幸運なことに、以前に友人から「推理小説として読まないほうがいい。SF色の方が強いから」と忠告を受けていたので、僕はその辺の違和感を覚えることがなかったのは幸いしたと思う。
また、序盤の主人公は非常に後半を引き立てるための、布石として、読む側に忍耐を強いる性格をしているのも、賛否両論に火花を散らせる結果になっているように思える。
僕の個人的な意見としては、宮部作品の中でも上位に位置する作品だと思う。
特に後半の事件自体の謎解き以降の話が非常に面白かったし、引き込まれていた。
少年の現代的感覚の視点が非常に活きていたと思うし、彼女の作品の特徴である少年の殻を突き破る過程を、歴史事実とともに歩むのは非常に面白く感じた。
多数の時間軸の伏線から、一気に謎が解けていくのは痛快だった。
それにしても、この作品も切ない読後感である。
現代を生きる僕たちは、なんとなくこの時代の傍観者のような立場になっているのかもしれない。
この作品を読んで、僕自身、この時代に戻ってきた時、そんな事を思ったのは、やはり序盤の主人公の姿があったからだろう。今を生きるとは、この情報化社会で、何と難しいことだろうと思った。
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