1つの愛の物語を二つの視点から描く。
そういう斬新なアイデアで描ききったのは、辻仁成と江國香織。
この人気作家の両名が書いたのだから、面白くないわけが無い。
僕は一気にこの恋物語の男性側のパートを読んでしまった。
「忘れられない人」というものをきっと誰でも胸のうちに抱えている事だろう。
そうして、その過去と現在とをなんとか折り合いをつけながら、人は生きている。
でも、どうしても折り合いのつけられない未来というものが過去と現在とで交差してしまったら…
人はどうしてしまうのだろう?
辻仁成が描くという事で、とても共感できない人は共感できないだろう。
ある種、あまりにも女性的すぎる一面を持った男性だからだ。
でも、深く自分を掘り下げて掘り下げて、格好悪くても悩んでいるその姿に共感を覚える人は多いはず。
恋愛独特の情熱的な自分と冷静ないつもの自分とのはざまで揺れる自分をうまく描いていて、その狭間からこの物語が生まれたのだろう。
また、フィレンツェの街の雰囲気がうまく描かれていたし、同時に光に包まれたフィレンツェなどでのシチュエーションはどこかとても崇高な感じがした。多くの美術作品が紹介され、それがまた恋愛の芸術性を高めているようにも思える。光に包まれている主人公が持つ深淵というギャップに惹かれた。
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