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 ◇「蛍川」 宮本輝 (角川文庫)  ◇

+-+- あらすじ -+-+

 堂島川と土佐堀川が合流し、安治川と名を変えていく一角、まだ焼け跡の名残を伝えていた、昭和三十年の大阪の街を舞台に、河畔に住む少年と、川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟のつかの間の交友を、不思議な静寂のうちに描く、太宰治賞受賞作『泥の河』。

 立山連峰を望む北陸の富山市を舞台に、熱を秘めた思春期の少年の心の動きと、いたち川のはるか上流に降るという蛍の大群の絢爛たる乱舞を、妖かに、抒情的に描き、芥川賞を受賞した『蛍川』。

+-+- 感想 -+-+

 宮本輝の代表短編作二作読んだ。

 はっきり言うけど、すごく怖い。底知れない日常の狭間に残る恐怖が行間に漂っていた。どちらの短編にもそれは言える。

 

 「泥の河」では戦後の回復する過程の闇をすごくヴィヴィッドに描いている。純真無垢に育ってきた主人公と、辛い境遇ながら助け合って生きている姉弟。その三人の友情と、生き方によるすれ違いはかなり切なく、同時に言いようのない恐怖があった。

 

 「蛍川」では、少年少女たちの純真な想いと、理不尽な人生がかなり深く交わっている。理不尽さと夢見ている少年少女たちの邂逅は、あまりにも劇的で、そしてあまりにも儚いものだった。そうやって、大人になっていくのかもしれないけれど、蛍と闇、そして人との絡みはどうしても底知れない恐怖を喚起させた。

 

 短編としての切れ味は抜群の二作品だと思う。

 

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