近代ヨーロッパ…正確にはフランス第二帝政期末期の頃の物語だ。
中世の名残と近代の産業が交錯した時代。強国が群雄割拠した時代だ。
フランスの凡王ルイ・ナポレオン、プロイセンの宰相ビスマルク、ロシア帝国のアレクサンドル2世、そして大英帝国ヴィクトリア女王…
一言で言えば、多士済々だろう。その時代をこの作家は非常にうまく描いている。まあ、この上記の人間たちをそのまま描いたのではないのだけど、それぞれの国の文化や経済などをちゃんと史実に沿って描いている。
これでデビュー作なのだから、凄いの一言に尽きる。
確かに難解な用語も多く、最初はその文章に違和感を覚えたけれど、精密な心理描写や情景描写などでいつしかその違和感はなくなっていた。かなりエグい描写もあるけれど、それが一層核心をミステリアスなものにし、同時に緊張感を読者に与えていた。
伏線の張り方も絶妙だし、最後あたりは中断するのが非常に困難なぐらいに物語にパワーがあった。
音楽をめぐる狂気がページの至る所に散りばめられ、それが読者を同時に魅了しているのも事実だ。狂気と理性の間に時々見せる『至高の音楽』。それを行間から読者に聴かせているように思える。
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