本多孝好?
名も知らない作家に正直、僕はあまり期待していなかった。
そしてそれはいい意味で僕を裏切ってくれた。
村上春樹的文体。
静謐と透明感が入り混じった世界観にすっかり僕は魅了された。
気に入ったのは「眠りの海」と「祈灯」、「蝉の証」「瑠璃」だ。
特に「眠りの海」と「祈灯」は最近読んだ短編集の中でもかなりお気に入りのランクに入ると思う。
「眠りの海」では不器用でどこまでも誠実なカップルたちの姿にどうしようもなく切なくなったし、「祈灯」は妹や幽霊ちゃんの背後にある漆黒の闇に慄然とし、そしてそれに耐える強さに感動した。
この人の描く小説にはどれも心の深淵が背後に潜み、そしてそれに負けない小さな灯火がある。真っ暗でありながら、力強く勇気をもらえる作品だと思う。
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