古代日本を舞台にした小説は意外と少ない。特に神話の時代などの小説はあまり読んだ事はなく、その設定だけでも十分、新鮮だったし、魅力的だった。作者の佐向先生は大学院で古代日本の研究をしているらしいので、その大学院での研究が十分に生かされていて、非常に深みのある世界観だったと思う。登場してくる人物もなかなか魅力的な人が多く、個人的には夜筑くんが非常に良かった。
ストーリーも夢の謎、そしてヒーロー、ヒロインの成長などぐぐぐっと引き込まれたし、沫子が下す決断、そして安婆の島に訪れる運命が気になり、はやる気持ちを抑えながらページをめくるのに苦労した。
この物語の魅力のひとつのファクターである『アイデンティティ』、つまり『存在意義』の確立の部分で、どこにも所属できない者の苦しみはちょっとわかるような気がした。その彼らを表現できるだけの度量が物語としての深みを与えているような気がする。
僕は帯にある『古ロマン』という言葉に最初は頷いたけれど、個人的にこの作品は「古代オペラ」というような、そんな作品のように思える。現実の厳しさとそれに立ち向かう人々を劇的に描いていると思うからだ。ロマンだけではない物語だと僕は思う。
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