乙一初挑戦だったのだけど、予想以上の出来にうむむと唸ってしまった。
前から評判の高い作家さんで、はずれはないだろうと思ってはいたのだけど、予想以上にツボにハマった。温かくてほんわかしている。そんな読後感だ。
個人的に好きだったのは表題作の「失踪HOLIDAY」ではなく、「しあわせは子猫のかたち」の方。「失踪HOLIDAY」もいいんだけど(というよりすごくいい)、それ以上に僕は「しあわせは子猫のかたち」の方に強く惹かれた。
「しあわせは子猫のかたち」はすごく不器用な主人公が伯父の家に引っ越した事から話が始まる。彼は世の中に絶望し、社会との係わり合いを拒否しようとしていた。カーテンを閉め、家に閉じこもる…いや、閉じこもろうとした時、カーテンはいつのまにかに開いていた。それは前のこの家の主である幽霊の仕業だった。前の家の主が飼っていた子猫と幽霊、そして彼の一匹と二人(?)の奇妙な共同生活が始まった。
そして、徐々に前の主の秘密と彼の心の痛みが明確になっていくのである。彼の心の痛みの大きさは何の裏返しなのか?この社会で痛みを感じずに生きるのはかなり難しい。でも、だからと言って傷つくから引きこもるのがベストなのか?ほんの少しの勇気、そして新しい世界を、この作品では見せてくれる。
表題作の「失踪HOLIDAY」は14歳という微妙な年齢の天下無敵のお嬢様が引き起こす大騒動を描いているんだけど、ついつい最後の方は手に汗握る展開と、妙な違和感との間でやきもきさせられる。自分も経験した成長と、忘れそうになるそのときの気持ちをすごくヴィヴィッドに描いていると思う。
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