精緻な文章。
読み始めはそんなイメージだった。心理描写や情景描写が非常に重厚でそれだけでも充分、中世ヨーロッパの雰囲気を醸し出しているし、またどこか退廃的な主人公の色も炙り出している。
そして、主人公のフランソワが弁護として立ち上がった途端、一気に僕は話に呑みこまれていた。今までの重厚な描写から突然、軽快な文章になったと錯覚させるほどにだ。もちろん、その重厚な描写が失われたわけではない。ただ中身がフランソワ自身の思いから法廷内の緊迫感にシフトしたためだろう。そして、その法廷途中に描かれる人物描写がまた絶妙だったように思える。
フランソワの絶望の理由、ジャンヌの頑なさなど多くの不器用さと強さが交錯し、彼らの前に不気味な権力が姿を現す様はやはり戦慄した。だが、不器用ながら、自らの正義、もしくは信念を貫き通す彼らに僕はひどく心を揺さぶられた。
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