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 ◇「パイロットフィッシュ」 大崎善生 (角川文庫)  ◇

+-+- あらすじ -+-+

 人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない――。

 午前二時、アダルト雑誌の編集部に勤める山崎の元にかかってきた一本の電話。

 受話器の向こうから聞こえてきたのは、十九年ぶりに聞く由希子の声だった。

 記憶の湖の底から浮かび上がる彼女との日々、世話になったバーのマスターやかつての上司だった編集長の沢井、同僚らの印象的な姿、言葉。

 現在と過去を交錯させながら、出会いと別れの切なさと、人間が生み出す感情の永遠を、透明感あふれる文体で繊細に綴った、至高のロングセラー青春小説。

 吉川英治文学新人賞受賞作。

+-+- 感想 -+-+

 登場人物がある種の純粋さを持ち合わせていた時、小説の世界では特にその純粋さの故、読者をかみそりの刃で切ってしまうようなそんな傷跡を残す事がある。

 このパイロットフィッシュもそんな鋭い剃刀の刃を隠し持った作品だった。

 

 特に可奈という少女のエピソードはこの物語の中で特に本質的な部分であったような気がするし、それはこの物語の中で最も鋭い刃を読者に突きつけたものでもあった。

 「人は一度巡り合った人と二度と別れることは出来ない」

 この物語を読まなければ、この言葉の意味はわからないだろうし、確かにこの言葉は真実なのだなと思う。

 

 今までも、そしてこれからもずっと「現在」が積み重なっていく事になるのだろう。

 「過去」も「未来」も本当は存在せずに、ただ僕たちが生きていく時間軸に対して便宜上作った概念であり、常に現在こそが僕たちの前に存在していく。

 そして、僕たちはその「現在」出会った人たちと永遠に別れることは出来ないのだ。

 

 どちらかと言えば、哀しく、痛々しい物語なのだろう。

 でも、何度か読み直してみたくなる不思議な魅力に溢れた物語でもあった。

 

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