森博嗣の本はそれほど読まない。
なんとなく犀川・萌絵シリーズで苦手になってしまったのだ。
だが、この本は表紙と帯に惚れて、買ってしまった。
『僕はまだ子供で、ときどき、右手が人を殺す。その代わり、誰かの右手が、僕を殺してくれるだろう。』
帯にこんな事を書かれると、僕はその危うさに惹かれ、本を買ってしまうのだ。
そう、これはミステリではない。
森博嗣が書きたいものを書いたようなそんなサービス精神に溢れていない作品だ。
だけど、僕は初めてこの人の作品がいいと思った。
身体の芯が痺れるような感覚。
主人公の透き通ったような精神と、どこまで暗い時代。
なんとなく、僕たちの時代に似ているような気もする。
空を翔る爽快感とそのあまりに無力な現実に対する虚脱感。
この二つが見事に一冊の本になった傑作だと思う。
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