人の心の闇を日常に還元した作品集だと思う。
詳しく書くと、ネタばれになるので、書かないけど、読んでいて、ぞっとしたシーンが盛りだくさん。下手なホラーよりも、僕は怖かった。
誰にでもある残酷性を「緑色の獣」で描き、幸せの中で自分を見失っていく姿を描いた「氷男」。表題「レキシントンの幽霊」では「死」と「生」の狭間から、人の心を描ききっていた。この辺りはさすが、春樹といったところだろう。
しかし、最も怖かったのは「七番目の男」。人の恐怖心から生み出される様々なものが脳裏に何度も横切って、かなり怖かった。これは「めくらやなぎと、眠る女」でもこの種のものが描かれていた。
どこか哀しいけど、その哀しさを僕は明確な形で作り上げる事はできなかった。この短編集の恐怖はそのような漠然とした恐怖のようなものだった。
|