著者のティム・オブライエンはヴェトナム戦争に歩兵として従軍。その体験をもとに22の短編を描いています。これはいくつかの事実を除いて、フィクションでしたが、それでも読んでいる最中に、ふと僕はこれが現実に起こっているような錯覚に陥りました。そして22の短編はどれもが同じ方向性を有しており、22の短編というよりも1つの長編という感じでしたね。
ティム・オブライエンという一歩兵(もしくは彼が所属したアルファ中隊)がヴェトナム戦争を通じて直面してきた内面世界、そして事実を彼は現実に起こった事と、自分の作り上げた物語を巧みに組み合わせて、書き上げていきます。
単純に「反戦争」を謳った本ではないです。殺しがいけない、銃を撃つのがいけない。そういう事を作者は伝えようとはしていません。それよりももっと根源的な事。戦争という状況で、人は何をどう感じ取るのか、それにティム・オブライエンは多くの労力を使っているように感じました。
戦争という特殊な状況の中で、登場人物達は通常では考えられない行動、そして通常では得られない感覚を得ていきます。しかしそれは僕たちが通常、持ち合わせている感覚が、戦争という状況で、大幅に極限の状態に引き上げられたとも考えられ、この本はそのような兵士達の心の「戦争」に焦点をあてているように思えました。
戦争を僕は経験した事がありません。だから作者がヴェトナム戦争に対して、どのように恐怖を感じ、過ごしてきたのかは推し量るしかありません。しかし文章を読んでいると、彼らが死に直面する事で、生を実感し、戦争を憎みながらも戦争の持つ魅力に惹かれていったことが窺い知れます。
僕は今まで戦争というものを考えた事はありますが、戦争に参加している人達のストーリーを考えた事はありませんでした。戦争で兵士達がどう感じているのか、それを知っただけでも本当に大きな収穫を得た感じです。僕の知っていた「戦争」は
一般兵士の顔が見えない戦争でした。感情を持たない兵士なんていないんですよね。百人の戦死者が出れば、それだけの物語が終わりを告げ、それよりも多くの人間達が哀しみ、傷つく。敵軍の兵士だからと言って、無感情に殺せるわけでもない。
そこには何かしらの感情があるし、一つの出来事にいくつもの物語がある事を僕は実感できました。
本当に心が震えるとは、こういうことなのかなと感じましたね。
|