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 ◇「草の花」 福永武彦 (新潮文庫)  ◇

+-+- あらすじ -+-+

 研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐり合った藤木忍と、藤木の妹千枝子のとの恋にも挫折した汐見茂思。彼は、その儚く崩れやすい青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上を覆った冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。

 

 まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。

+-+- 感想 -+-+

 緻密で、繊細な描写。

 それは叙情的もであるし、叙事的でもある。

 主人公の心もまた、叙事的でもあったし、叙情的でもあった。

 彼はその優れた感性と同時に感性にも負けない現実を直視する力を孤独と言う方法によって獲得し、そして、生きたがために彼は大体において不幸だった。

 

 人は元来個人であり、個人が心をもち、その心が性質として、秘匿されるものであるから、わかりあえないものである。大きな傾向として、理解はできるにしろ、彼らはその理解したという幻想を抱いているにすぎない。しかし、それは気づかないか、気づいても気づかないフリをすることによって、人は何とか人生をやりくりしている。

 

 それは妥協なのかもしれない。

 

 しかし、主人公はその妥協が出来なかった。いや、彼の周りもそうだった。妥協をしようとしても、彼が拒んだのだ。そうした不器用な生き方しか出来ない彼。

 

 しかし、その生き方は強く儚く、けれど、透明で純潔なもののように見えるのはなぜだろう?たぶんそれは、求道者であるからかもしれない。一つを極めようとする彼の姿に、僕は彼が不幸でありながら、僕たちが決してできない生き方に惹かれるのかもしれない。

 

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