†…心の風景… †

 あなたは言葉で表現できないほどの美しい風景を見た事がありますか?

 

 ギリシアのエーゲ海サントリーニ島。

 僕はその島で迎えたサンセットに言葉を失ったまま、目の前に広がる風景を見ていた。

 どこかで誰かが「It's a Showtime!」と言った。観光客の団体が拍手をしていた。

 でも、僕はそのどれにも反応する事ができなかった。

 できる事はただ息をする事と、それが溜め息に変えることだけ。

 

 真っ白な家と教会の青い屋根。

 抜けるような青空にそのおもちゃのような街並みが断崖絶壁の上に映えている。

 サントリーニ島。

 アトランティス伝説が残るエーゲ海に最も愛された島。

 

 島のイオ地区から眺められるサンセット(夕暮れ)は世界一だと言われる。

 僕もその評判を確かめるために、タベルナ(レストラン)のオープンテラスに座り、サンセットを待った。

 青空が刻一刻と茜色に染まっていく。

 確認できなかった太陽がいつからか丸く空に浮かび、水平線へと消えていこうとしている。

 

 相方はカメラを構え、シャッターを何度か押した。

 そして絶望するかのように溜息をついたものだ。

 「カメラじゃきっとこの風景を表現できないな」

 僕も同感だった。

 

 僕たちはその時、サントリーニ島のサンセットを感じていた。

 五感を全部使って。

 景色だけではなく風の匂いやタベルナの喧騒、肌を包み込むエーゲ海から吹いてくる風、そして、ビールを飲みながら食べるロブスターの味。

 それが僕たちを深く感動させたのだ。

 

 「言葉にできないほどの風景」を考えた時、いつもこの風景が最初に僕の脳裏に浮かんでくる。

 そして、そんな旅行先の素晴らしい風景以上に脳裏に浮かんでくるのは、僕の日常風景だった。

 

 柔らかな春の朝陽が差込む自分の部屋。

 隣に寝ている恋人の寝顔。

 子供の楽しそうな笑顔。

 スポーツ選手の真剣なプレー中の顔。

 父親の働く時の顔。

 ガラス張りのビルが反射する硬質な光。

 人口の光が作り出す光のイルミネーション。

 海岸線をバイクで走るその風の匂い。

 地元の砂浜から望む太平洋の朝焼け。

 近所の公園の桜並木。

 木々の間の木漏れ日。

 

 僕は色々な美しさに囲まれている。

 そして、そんな僕の境遇は決して特別じゃないはずだ。

 

 さぁ、心を開いて。

 見える風景を受け入れて、風の匂いを嗅いで、聞こえてくる音に耳を傾けて…。

 そして、カメラを片手に、外に出かけよう。

 ほら、あなたのそこにもキラキラと輝く珠玉が。

 

 桜が咲けば、桜を見て、薔薇が咲けば、薔薇を見よう。

 大切な人がいれば、その人の顔を見て、その人の心を感じてみよう。

 こんなにも僕たちの住む世界は美しい。

 そして、きっとあなたもそして僕も誰かの心に残る風景の一部のはずなんだ。

 

 あなたも「心の風景」をたくさん作ってくださいね。


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