†…Xmas story… †

 今年も、クリスマスの時期になった。

 道の両側に佇んでいる並木に、多くの電球がつけられ、人々は幸せそうに歩いている。北風は首をすくめたくなるくらい冷たいけど、それも、それでクリスマスには似合いの風なのかもしれない。

 この風景、変わらない。

 この時期になると人々は、なぜか、無性にお祭り気分になるようだ。

 僕も、変わらない。

 君を待つ場所も、君を待つ気持ちも。

 いや、変わってしまったのかな?

 少しは、もしかすると、かなり…

 いつまでももう来ない「君」を、その幻影を追い求めてはいけない。

 僕の理性も、そして得がたい友人たちも声高に主張するけど、なぜか、この時期になると、君をこのクリスマスツリーの下で、待ってしまう。

 このクリスマスツリーはずっと僕と一緒に君を待っているんだよ、たぶん。

 感情って不思議だよね。

 複雑なレースに描かれた模様のように、自分すらよくわかっていない。

 でも、遠くから見ると、すごくわかりやすい。

 レースは綺麗だけど、僕の感情はレースの模様のように綺麗ではない。でも、「好きだ」その事実だけは醜くても変わらない。

 君が好きだから、君しか見えないから。

 だから、今年も待とう。

 去年は三年ぶりにクリスマスイヴに雪が舞った。

 僕は舞い落ちる雪の間に横たわる闇に目を凝らし、そして君がその降る雪の中、ここに来ないかなと祈った。

 再会するには、最高のシチュエーションだろ?

 君は雪のような白い肌と、そして雪よりも透き通った心をもった素敵なお嬢さんだった。君と最後にこのクリスマスツリーを見上げたのはいつだったかな?

 

 …街は前の僕たちのように、幸せな人たちでいっぱいだ。

 この一瞬を、そして輝ける未来を見つめる瞳でいっぱいだ。

 

 「おじいちゃん、もう、帰ろ。」

 「ああ、そうだね…もう、少しだけ、見せてくれないか…」

 僕に「君」だけど、君じゃない女性が話し掛ける。

 彼女は昔の君を思い出させる。少し現代風だけど、君のように澄んだ心を持っている良い子だ。クリスマスイヴも、僕のような過去にしか生きがいを見出せない老人の行動に付き合ってくれる。。

 僕は、もう、80歳を過ぎてしまったんだよ。

 君は今でも20歳のままだね。

 羨ましいと言うより恨めしい。

 僕は君をあの恐ろしい空襲の翌年から60年間もずっとこのクリスマスイヴの日には待っていたのだから。

 戦争の時には早く僕と娘の所に爆弾が落ちてこないかを祈りながら、そして戦後は、娘を育てた後は、はやく僕にお迎えが来ないかなと一心に念じながら。

 

 君に良く似た孫が頬を赤くして、僕の手を握る。

 「おじいちゃん、風邪ひいちゃうよ!!」

 

 60年前の君だ…と思った。

 いや、君だ。

 この子は君の素晴らしさをちゃんと伝えている。

 

 そうか、そうだったんだね…

 わかったよ、僕は気が付いたよ。

 バカな話だね。

 こんなに君と会っているのに、僕は気づいていないなんて。

 

 僕は君を待っていて、そして君を寂しがらせていたのかもしれない。

 「おじいちゃん?」

 孫の顔が少しだけぼやける。

 「風が強くて、目にゴミが入ったんだよ。」

 言い訳は60年前も変わらない。相変わらず下手かな?

 痰が喉に絡まり、僕は咳をする。

 孫が僕を心配そうに見た。

 「おじいちゃんが風邪をひいちゃったら、わたし、すっごく怒られるんだからね!」

 「大丈夫だよ、大丈夫。」

 お年玉は今年は奮発してやろう。

 現世の君を60年間も放っておいてしまったしからね。

 

 ありがとう、君はずっと僕の傍にいたんだね。

 

 メリークリスマス。

 はじめて、天上にいる君に言ったような気がする。


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