雪の国・アイスランド。 一年中雪に閉ざされた大地のなかに、氷に覆われた宮殿が今尚ある。 かつて比類なき魔法力によって国に繁栄をもたらした、伝説の女王がいた。彼女の歌声は一帯に春をもたらし、それでいて雪や氷の美しさは保ったまま、すばらしく美しいクリスタル・パレスとクリスタル・ガーデンを創りあげた。 決して溶けきることのない湖は、月の光を帯びて蒼く輝くと言う。その中央に燦然とそびえる宮殿は、又の名を「蒼月の宮」と言った。 だが、今は。 宮殿は氷に閉ざされ、草萌ゆる庭は荒れ果てて久しい。 何故なら―――代々女王に受け継がれてきた魔法力は、何時の頃からか弱まり、そしてまた何時の頃か…女王の血は絶えた。 彼女の魔法力に目をつけた時の権力者が奪ったとも、異界のモノに魅入られたとも言われるが、真実は定かでなく、歴史はなにものをも証明しない。 魔法力による繁栄を失った国は急速に荒廃し、他国へ移る事も叶わなかった少数の人間が、細々と小さな村を作っている。
だが、近年。 静かに噂は広まっていた。 水面を揺るがす、小さな波紋の様に。
「蒼月の宮に歌声が響く」
氷点下の世界となったクリスタル・パレス。美しくとも、生きるものを拒むその宮殿に、忽然と現れたという―――春色の歌姫。 微かに芽吹いた緑に、国民は歓喜した。
新たな出会いは、彼らを新たな地へと誘う。 キラ・ヤマトと名乗った少年は、しかしまるで長い年月を経てきたかのような、深い眼差しを二人に向ける。 たった一人、孤島に住んでいるのか。 問い掛けを、彼は静かに否定する。 「いなくなってしまったんです。…彼女が」 何故探そうとしないんだ。 更なる問い掛けに、悲しそうに海を見つめる紫の双眸は、ここに無い何かを、確かに見つめていた。
「僕には…翼が無いんです」
もし自分に空を羽ばたく翼があったなら。 彼女の元へ違わず飛んで行ける、翼があったなら。
白亜の翼―――世界の果てまでも目指せる、それを、僕等は。
「雪の国編」coming soon.
++++++++ キラ・ラクス・ミーアのおはなし。
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Date: 2005/07/14(木)
No.1
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