香川市民劇場例会感想文集

1997年5月例会 地人会公演 はつ恋
運営委員会まとめ

 新劇女優の草分けである松井須磨子と、将来を嘱望され

た学者・  島村抱月という伝説的人物の物語とあって、期

待の高い例会であった。               

 早稲田の教壇を去り、妻子もすてて、運命的な出会いを

した須磨子への愛と、演劇への志に生きた抱月。そんな思

いや苦悩をコミカルな演技で、少年のような純粋さ、誠実

さを観せてくれた山本圭さん。わがままで強情な須磨子を

演じながらも、人間臭く可愛らしさが醸し出された三田和

代さん。そして、二瓶鮫一さんの棟梁と語りなど、アンサ

ンブルのある舞台でした。              

 この世には、まったくの脇役という人間は存在しない。

すべての人が主人公で、すべての人が脇役であるという言

葉を思い出させます。                


 しかし、今回の例会は感想文が少なく、「醒めた目での

観劇」や、「主人公の周辺を欲深く説明して、結局回り舞

台をぐるくる廻る訳のわからない・・・」などのように必

ずしも満足された方ばかりではないようでした。    

 芸術性と大衆性の二元の道に立ち向かった抱月の生きざ

まは、そのまま今日の演劇状況にあてはまるテ−マです。

明治から大正という時代に、須磨子だけでなく演劇にも恋

をした抱月を、やさしい視線で包んだ斎藤憐さんの思いが

もう少し伝わってくればと、残念が残りました。    

 とはいえ、劇中劇も楽しめましたし、「カチュ−シャの

唄」などの挿入歌も効果的に使われていて、なつかしく感

じられた方もおられたことでしょう。         



感想文      

◎「抱月のはつ恋」を描くとすれば、あくまで彼の心情を

追って、物語を展開させるべきである。そうすれば須磨子

の自殺も場が与えられるし、現代にも通じる普遍性や共感

が得られたと思う。                 

 しかしこのお芝居は、題名が「抱月と須磨子」のようで

主人公の周辺を欲深く説明して、結局回り舞台をぐるぐる

廻る、訳のわからない幕切れになっている。      

 本が悪い、だから役者の演技も生かされない。山本を見

ていて、チャップリンのヒットラ−をやらせたかった。 

                    1924



◎いつもは、機関紙の「まくあい」だけですが、今回わら

半紙の印刷物を頂きました。「はつ恋」の背景がよくわか

りました。                     

 須磨子の抱月に対する一途さ、しかし、頼りない女性で

なく、自立した女性の一途さ、そして芝居に対する一途さ

がよく描かれていたと思います。又、須磨子の名を高らし

めたのは、その芸術性ではなく、大衆性であったという事

もよくわかりました。中山晋平といえば、日本歌曲の大御

所と思っていましたが、今なら、小室哲也ばりの流行歌の

作曲家でもあったわけすね。             

 強い女、須磨子でも結局自殺してしまい、弱い女、須磨

子。山本圭、三田和代が、抱月、須磨子になりきり、公演

でした。               40代男性



◎何ていうか、傍観者というか覚めた目での観劇となって

しまった。後ろめたさも残り、須磨子役も抱月役も、熱演

して、それが伝わるだけに、何とか、楽しみたかったので

すが、私は、溶けなく、燃えないまま座っておりました。

 ただ、二人の仕事、関係はよくわかりましたが。   

         今、舞台って何? 60代以上





◎抱月と須磨子の芝居だと言うことだから、陰気な芝居で

なかろうかと思ったがそうでなかった。この芝居は、抱月

と須磨子を主軸とした明治、大正風俗史演劇発展史及び演

劇人の心意気を描いた芝居と思った。         

 劇中劇のオフィリア狂乱の場面、主演男優に対して抱月

が嫉妬する場面等、面白かったが、この芝居通り抱月は気

弱な男性であり、須磨子は下品な女が女優になることによ

って、後世にその名をとどめる名女優になったのであろう

か。                        

 又、この芝居では、須磨子の縊死の一因を劇団経営の行

きづまりとして描いているが、そうであろうか。これ等す

べては芝居のためのフィクションと受け取っておきたい。

 それにしても、明治、大正の芝居名、上演年を立て板に

水の如く述べたのには感心した。小生、フランス語の動詞

の変化を覚えるのに苦労しているので、あの役者に記憶術

を習いたいと思う。                 

             つわぶき 60代以上



◎今回の松井須磨子、私の持っているイメ−ジは紫の「お

こそずきん」で抱月の後を追って自殺した静かな場面が強

烈でしたのでドタバタにぎやかすぎて戸惑いました。  

 わがままで人間関係もうまくいかなかった面を強調した

のでしょうか。でも死ぬなんて、一筋に正直な人というか

抱月を失ってすべてがむなしくなったのでしょうか。  

 あの世でも手をたずさえて共に歩く姿で終わらせてます

けど――。帰宅して何気なく上を見ると、まんまるな美し

いお月様でした。有り難う御座いました。       

                   60代以上



◎よく大正ロマンという言葉を聞くけれど大正末期に生ま

れた私は当時の事は知らない。だが物心ついた頃より耳に

残るカチュ−シャの唄声はなつかしく、はつ恋は大変心待

ちしておりましたが、あまりロマンではなくきびしい抱月

須磨子の恋であった。大人の恋である。行き着く所へ行き

着いた感じだ。                   

 明治、大正の世の移り変わりが舞台によく現れておりま

した。スタッフの皆様ありがとうね。         

               桜の園 60代以上


◎島村抱月、松井須磨子の関係はもっとロマンチックなも

のと思っていましたが、実際は心の思いとは裏腹に、葛藤

の多い日々だったのかと思いました。抱月の演劇に対する

情熱とその彼に心酔しながらも彼の言いなりにはならない

須磨子の性格的なものとのぶっかりあい、それ等は周囲を

も巻き込んで大きな苦悩であったとも思えます。しかし、

この二人はこの劇団にとっても切り離すことの出来ない存

在だったのでしょう。また、当時の演劇界にとつても二人

の存在は大きかったのだと思います。         

 あまりにも有名な抱月と須磨子のこの二人が残した物は

今も演劇界で追い求められていると思われる演劇とは何か

という、このことではなかったでしょうか。演劇もまた芸

術であるとして、そこまで演劇を高めようとした抱月の思

いは、一つには周囲とのたたかいであり、民衆への挑戦で

あったと思います。                 

 このように見てきますと、今度の「はつ恋」は重いテ−

マを持っての上演だったのだということがわかります。 

ただ舞台が遠くて、抱月の時々発する光る言葉があったに

もかかわらず、また三田さんの熱演や、歴史上の方々の登

場も今一つ心に響くものをつかみ取ることが出来ませんで

した。でも抱月の思いや須磨子の人格に触れた気がしてい

ます。                       

                  松風 60代

◎帰りの電車内で二人のやり取り抜粋         

A まず総評。少々荒削りだが隙の無い作品でしたね。 

B そう、表皮的に突っ走り、いっきに駆け抜けた感じ 

  ..。                     

A 役者さんが入れ替わり、立ち換わり、めまぐるしく 

  ..。                     

B そうですね。自分の出番と役割認識を確立してないと

  大きなミスにつながり場面が壊れてしまう。指令塔は

  大変ですね。                  

A 衣装換え、かつら選び、出と入りの場所、個の占領位

  置からせりふ廻しとその仕草。さらには照明あて、装

  置の移動などなど。どれも重要なことだし、それぞれ

  が頭に叩き込んでおかないと、とんでもないことにな

  る。基本的なことです。             

B 稽古場の阿修羅を意地悪にそっと覗いてみたい。それ

  にしてもみなさん芸達者。感動。         

A お芝居するプロですよ。それで何年もめし食っている

  ...。                    

B 舞台の上と下、右と左。あまねく使い果たしましたね

A 有効的に...。回り舞台もちゃんと操作して抜け目

  がない。                    

B 行灯揀宴塔v。立て屏風など情緒的な小物が出ました

A つなぎもよかったのでは。            

B そう、幕あいの活用。どの劇団も定着した手法となり

  見ざわりにならなくなった。           

A そして、ひとり語りで場をつなぎ、薄あかりにしてそ

  れとなく手のうちをみせる...。        

B いいことですよね。缶コ−ヒ−をどうぞ...。おお

  きに。                     

A プロセス分かりましたか。            

B ええ、何とか。それにしても急がせましたね。   

A おなじ間隔で根拠をつないでいきました。「ここは注

  視して欲しいのクッションを」じっくり演じて欲しか

  った。                     

B 随所に流れを汲んで、さわり部分をセットしてみせた

  が。                      

A 端正なお顔の山本抱月。あれで上背がもちょっとあれ

  ば。                      

B 須磨子三田さん。勝ち気ですね。恐れ入りました。 

A お豆さんを食ってた脇の脇のムラさんすきだなぁ。 

A ともかく、みんなが主役して長丁場を乗り切った。 

B そんな感じの例会。ごくろうさんでした。     

A では、又次回まで...。車窓は海辺にさしかかった

                     六つ松