感想文
◎「怒りの葡萄」は久々の本格的な舞台であり、期
待にたがわぬ公演というか、名演であった。何年ぶ
りであろうか。
第一に役者たちの表情がよい。身振りや手振りや
挙動も大事だが、表情が何よりであることを改めて
思った。第二は舞台転換がよい。じつに小気味よい。
しかも大道具のみならず、役者が黒子役を兼ねると
ころも見事である。第三は水の登場であり、川とか
庭水とかいった形の、生活と風光の迫真性、そして
「生物」が水から生まれ、水と共に生きるリアリズ
ムや水のゆらめき、そこに農民のよろこびとかかな
しみがつよく、また、さびしく、描かれたので、舞
台というものを忘れさせる象徴的な演出であった。
最後に強調したいことは場面場面の美術的なプロッ
トであって、フェルメ−ルやレンブラント、またミ
レ−の絵画に近いシ−ンが次々に展開され、私はこ
の瞬間よ、止まれと幾度となく心の中で叫んだこと
か。最後の大団円、私は光が消えて暗闇となったと
き、電気を消したまま、座席で1.2時間立ち上が
らずに座っていたかった。
バ−コット 70代以上男性
◎年に一回位は暗く重いテ−マの作品もいいものと
は思うものの、音楽を入れて(しかも我々の耳慣れ
た曲を)多少雰囲気を明るめにしようと工夫のあと
が見える。しかし所詮は暗い心持になるテ−マ。が
最後になって一気に高まりを見せる。それも崇高な
程の。
怒りの葡萄のテ-マはこれだったのかと思わせ、感
動の中に幕は降りる。
さすが各地での評価が納得できるものだった。
福寿草 50代女性
◎脚本が今ひとつ
私は脚本は知らない。スタインベックの小説の終わ
りを脚本にするなら
−シャロンが飢えた男に乳房をあたえる。シャロン
の口唇には神秘的な微笑が浮かぶ− (幕)
とでもなろうか。しかし幕が下りても「納得」と「
感動」が今ひとつであった。
どうしてなのだろう。いろいろ考えてみたが結局、
次の二つのことに行き当たった。
1、ジョ−ド一家の生活解体カルフォルニア行き背
景がもっと丁寧に書かれないと緊迫性や必然性
が薄らいでしまう。
2、当時のカルフォルニアの土地所有や開発、労働
者の移住と搾取、果樹生産と市場の関係など、
もっと具体的に語れないと「怒りの葡萄」には
ならない。
とにかく芝居の時代背景が十分ドラマの中にえがか
れていない点が不満として残った。
スタインベックの小説はこの点が見事である。全3
0章のうちのかなりの章が、ジョ−ド一家のおかれ
た立場や、彼等がとる行動の背景になる社会的状況
に当てられている。
脚本にも一工夫あってもよいのではないかと思う。
出演者の数が多く、装置も面白かった。父親のト
ム・ジョ−ド、息子のトム、娘シャロン、そして母
親のそれぞれが存在感を示しながら見事なアンサン
ブルを形づくっていた。
特に母親の愛と力が印象的に残った。キャスト全員
が熱演であった。 長月 70代以上男性
◎「怒りの葡萄」が一体何であるか分からぬまま一
週間以上経ち、これは「『人生とは何か?』と考え
るゆとりすら与えられない理不尽な人生を送らねば
ならぬ苦悩」を描くことが主題であり、宗教がらみ
なのでは・・・と思うようになってきました。そこ
で英和辞典を引いてみると、聖書に「children of
wrath 」という表現があり、「受難を受けるべき人
々」という意でした。そして、このお芝居のタイト
ルは「the grapes of wrath」です。となると「神の
残酷さ」が主題なのではないでしょうか?スタイン
ベックが後年ベトナム戦争を支持していることを考
えると、この作品を単純に容共的ドラマと見なすの
は難しいでしょうか?とまあ、グチャグチャ書いて
みましたけど、原作読んでませんからねぇ、私は。
難しそうだけど読んでみるか。やれやれ。
ちきり 30代男性
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◎1939年怒りの葡萄で名声を高め、1952年
エデンの東で確固たるものとしたスタインベックは、
その十年後ノ−ベル賞に輝く。
アメリカ開拓史上、民主主義国家に至る苦闘の歴
史の一ペ−ジが今度の舞台だが、これを見事に凝縮
させ上演に導いてくれた方に先ず感謝。24人のメ
ンバ−は流石粒揃いで、ジョ−ド一家を含めたキャ
ストは、それぞれが身を張って一糸乱れることなく
演じていたのは他ならぬ演出のディロンさんの力の
賜物と言える。
アメリカ大恐慌の1925年以後、米国社会に思
想の大転換がもたらされることになるが、この時代
を、スタッフは作者の意図に背かないように、これ
ほど情景描写に注力した芝居は見たことがない。
目をひいたのが権力者と比圧迫者との激しいかけ
合い。どうなることかと気をもんでいると、そこに
現れるのが4人のウエスタン楽士。
怒りを慰め、救いを誘い、勇気と優しさ、その上
に強さまで与える躍動的なリズム、時折コ−ラスを
響かせる。これはまさに音楽療法そのもの。おまけ
に終了後、ロビ−での再演奏サ−ビスは「シャロン
のバラ」の乳房の使者のように想え、大感激。
さおり 70代以上男性
◎怒りの葡萄は、昔読んで大変印象に残った本でし
た。なぜ怒りの葡萄なのか、それは、折角美しく実
った葡萄を畑の中に鋤きこんでしまう。そして農民
たちは農場を追われる。こういう文面があったよう
に記憶している。農民たちの苦難の道がここからは
じまる。食料は底をつき、暑さとホコリにまみれて
・・・。
舞台に本物の水の川を作っていたのには、驚きま
した。しかもその中に何人かに人が入ったのに、も
う一度ビックリでした。
世の中には人の弱みに付け込む悪人がどの時代に
も必ず居るものです。ここでは悪質地主が網を張っ
て待っていた。警察の力まで借りて。
ここでひるまず闘うのがアメリカ人のパイオニア
精神というべきでしょうか。この場面は、色々な音
が入り交じって、人の言葉が聞き取れませんでした。
苦難の道をくぐり抜けて目的地に到着できた者は
勝利者というのでしょう。
ジョ−ド家も母親の気丈さが目立ちました。父親
が幼い子供たちに目をやりながら、何とつぶやいた
のでしょうか?「新しい光はー」この子供たちにと
いう願いではなかったでしょうか?
、松風 70代以上女性
◎「怒りの葡萄」を見るのは、2回目です。初演の
東京の三百人劇場で見た時、ものすごい感動と共に
チャップリンの「独裁者」のラストシ−ンを思い出
しました。人間には、地球上で生きていけるだけの
恵みが、与えられているんだと言うことをひしひし
と感じました。勇気と知恵を持って、無益な争いを
やめれば、必ず幸せになれるんだということを改め
て実感しました。
今回、香川市民劇場で、2回目を見ることができ
て、初演では見逃していた部分も、見えてきました。
そしてラストで、何故か涙があふれました。子供を
失った悲しみのどん底で、必死に人を助けようとす
る場面に体がふるえました。またどこかで、このお
芝居に出会うことがあったら、もう一度見てみたい
です。 ひばり 40代女性
◎大勢の出演者皆さん熱演で感動しました。
暗くて幸いスト−リ−も合唱と演奏でほっとささ
れ、こちらも舞台に引き込まれました。「人はカン
ニン袋の緒が切れる時もある」この言葉は同感です
が、そんな事のない平和で平等な世の中を望みたい
ですね。 ニッキ− 60代女性
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