その3 ケビン・コス(ト)ナー KEVIN COSTNER


    コス(ト)ナーを初めて知ったのは、『アンタッチャブル』('87年)でである。禁酒法時代、シカゴを牛耳っていたアル・カポネを監獄に追いやった男、エリオット・ネス役のコス(ト)ナーは、びしっ、しゃきっという感じでヒゲ剃り跡もさわやかに、正義感に燃える若い財務官を立派に演じていた。
この映画はカポネ役のロバート・デ・ニーロはなりきり演技でものすごいし、相棒のアイルランド人警官にはショーン・コネリー、助っ人には例の剛毛チャンピオンアンディ・ガルシアを持ってきていて、とにかくキャストが濃ゆいのだ。
だいたいが監督からしてブライアン・デ・パルマなんである。もう、コッテコテじゃあないか。


    そのコッテコテな中でひとすじたなびくさわやかな風、それが主役のコス(ト)ナーだった。
細面の顔、アルマーニのスーツが似合うすらっと伸びた背。…かっこいいじゃん。
一緒に観た友達も「あんなかっこいいだんなさんいたらいいよねえ〜(はあと)」と、すっかりコス(ト)ナーに心を奪われてしまったようだった。
しかし、私も、彼のことを、ほんと、かっこいい〜…と思いつつ、なんとなく、映画の中で妻のお手製サンドイッチを食べるコス(ト)ナーの口元が、妙にムニュムニュとヒワイに動いているのが気になっていたのだった…


   その後、ビデオで『シルバラード』('85年)を観たのだが、なんだか知らないが私は共演のスコット・グレンのほうに目を奪われて、コス(ト)ナーのことはじぇんじぇん覚えていないのだ。
コス(ト)ナーは、『アンタッチャブル』のヒットで人気が出て、『さよならゲーム』('88年)、『フィールド・オブ・ドリームズ』('89年)(寝た)、など好印象の映画に次々と主演、映画雑誌のグラビアもばんばん飾っちゃうようになった。
この頃私は、「う〜ん…なんでこの人のことそんなに好きじゃないんだろう…かっこいいんだけど?」と不思議に思っていたのだった。
そして、'90年の『ダンス・ウィズ・ウルブス』でついにアカデミー賞独占の快挙を成し遂げてしまったコス(ト)ナーだが、それでも私は、「狼と踊る男…か。かっこつけすぎじゃ?」なんて心ないことを思っていたのだった。


    が、しか〜し。ついに化けの皮がはがされる時が来たコス(ト)ナー。『ボディガード』('92年)で、私の気のせいではなく、本気であまりにもかっこつけすぎたコス(ト)ナー、このへんで「ん?」と思った人が多いんじゃないかと思う。
『JFK』('91年)でも、コス(ト)ナーが「そこでオズワルドは何をしたか!!??
彼はなんと、コーラを買ったのだ!!」なんて言っていたのにウケてしまったのは私だが、『パーフェクト・ワールド』('93年)の、役作りとはいえすごいデバラになってしまったコス(ト)ナーに、えらいというよりなにやらトホホな匂いを感じ取ってしまったのも、やっぱり私だ。


    そして、コス(ト)ナーの転落を確実にした名作、『ウォーターワールド』('95年)では、
CGで髪の毛足されちゃったという噂も出るわ、監督を勝手にクビにしちゃって映画のトホホ化に全面的に協力しちゃうわ、と、踏んだり蹴ったりだったご様子。
だから、そのへんでやめておけば良かったのに、またしても去年は『ポストマン』('97年)の監督・主演をつとめる。私はこの映画観ていないのだが、ワーナーの重役が試写を見たところ、エンディング・テーマで何か音の調子が悪い、音響がおかしいのかと思ってたら実は
コス(ト)ナーが歌っていたらしい。自分の息子まで出しちゃって、自信満々でラジー賞5部門制覇。…あっぱれだ。


    今、車のCMでやっぱりなにやらムニュムニュ口ごもっているコス(ト)ナーだが、決して嫌いなわけじゃないのだ。
やっぱりどう意地悪に見たってかっこいいし、ほんとは、才能のある人なんだと思う。だから、このへんでちょっと自分の進む道を見極めて、あんまりトホホ道を突っ走らないようにしないとね。 ゆけ、コス(ト)ナー。