その9 デヴィッド・シューリス DAVID THEWLIS


デヴィッド・シューリス。役者さんの名前を言うよりも、「ディカプリオとチュー(それ以上もね)したハゲオヤジ」または「ブラピと仲良くチベットで山登りしたおっさん」と言ったほうが通りがいいかもしんない。次回は「ジョニー・デップと二人羽織り」くらいのことはしてくれるかとふんでいたんだけど…まあいいや。


この人の第一印象はすごすぎた。『太陽と月に背いて』('95年)を観終わった感想は、「レオレオ良かったわねえ」でも「チョビヒゲ笑えたよね」でもなく、
「あのナヨナヨハゲ、誰?」というものだった。シューリス扮するヴェルレーヌは、妻に殴りかかったかと思うとヨヨヨと泣き崩れて許しを請ういっぽう、ランボーにアヤしい目つきでラブラブ光線を出しつつハゲ頭を光らせ、壁ぞいにツツツ、と妙なつたい歩きをしながらウフッとばかりに首なぞかしげているのである。…気持ち悪すぎる。レオレオじゃなくともコイツにこんな様子で迫られたら裸足で逃げ出しそうだ。
このナヨナヨ、本物としか思えないけどあれは演技だったのか?と大きな疑問を残しつつも次へすすむ。


その直後。オールナイトで観た『D.N.A. ドクター・モローの島』('96年)に、なんとあのナヨナヨオヤジが主演しているではないか。どうやらロブ・モローが主演を降りたせいでシューリスに回ってきたらしいというのは後で知るんだが(シューリス、この映画「二度と観たくない」って言ってますが)、ここでもシューリス、壁に指つけてナヨナヨつたい歩きしてるう〜!
あれ演技じゃなかったのね!本物だね!とこの2本ですっかり彼のことを天然のオネエ俳優さんだと確信を強めた私だったのだが、どうも気になると思っていたら、なんと93年度のカンヌで主演男優賞もらってるすごいお人だったのね、彼。全然知らなくってごめん。
でも一番驚いたのは、カンヌがどうとかいうことより、シューリスが
ジョニー・デップと同い年だった('63年生)ということかな。ええ!?

というわけでいま一度このオネエオヤジの演技を確認しようと、彼がカンヌ主演男優賞の栄誉に輝いたマイク・リー『ネイキッド』('93年)を観てみたところ、これがびっくり。いいじゃないか、シューリス。ボサボサの頭にロングコートを羽織り、夜の街を徘徊しながら喋る喋る、もうシューリスの独壇場。しかも役どころはモテモテ君だ。つたい歩きの面影はみじんもない。
すごい、前に観たあれって演技だったのか、さすがはカンヌ主演男優賞←今頃気付く
 調子づいた私は続けて『恋の闇・愛の光』('95年)を鑑賞。ここでのシューリスは主人公の何倍も性格のいいロンゲのお医者さん。いかん、ス、ステキじゃないか。
この時点で私はすっかり彼に惚れてしまっていた。いや、マジです(笑)。冒頭彼のことをナヨナヨハゲとまで言い切ったのもコロッと忘れ、以後、私の中でのシューリスは
「でびしゅー様」と呼び名を変える。


第一印象がすごすぎて冷静に見られなかったのだが、実はでびしゅー様は、少女マンガのキャラクターのように背が高く、手足が長くてスマートだ。白人男性にありがちなムキムキゴリゴリとしたむさ苦しさが全然なく、脱いだら毛がボーボーということもない。お顔はちとクセのあるお鼻の長い典型的なイギリス人という感じだが、それも彼のノーブルなイギリス英語に合っていていいじゃないか。それにロンゲがけっこう似合うので髪型でかなりカバーできるぞ、
ハゲとかおかっぱ『ドラゴンハート』('96年)のビッケみたいな王子)とかじゃなければイケるイケる(笑)


でも、彼の最大のチャームポイントは何と言っても指。でびしゅー様は、そんじょそこらの手のモデルなんてとうていかなわないくらいに細くて長い綺麗な指をしているんである。
映画に彼を使う人たちもそのことはよくわかっているようで、『太陽と月に背いて』の脚本家は「ヴェルレーヌは詩人にふさわしい美しい指をしていた」と書き、『D.N.A.』ではファルーザ・バルク扮するネコ娘をして、わざわざ「綺麗な指ね」と言わしめるという演出もある。
そして『シャンドライの恋』('98年)。この映画は繊細なでびしゅー様の持ち味が最大限に活かされた佳作だと思う。さすがは巨匠ベルトルッチ。でびしゅー様は、ローマに住むイギリス人のピアニスト。あの世界一美しい指が鍵盤の上を…うっとり…それをカメラが…ああ←そっとしといてね

そんなこんなで最初の印象とは180度変わって今はすっかり大ファンとなってしまったでびしゅー様なのだが、もともと舞台で活躍していた人らしいのと、演技派ではあるけれど大作で主役をはるという人でもないので、出演作が少なく、新作の噂もなかなか聞こえてこないのが辛いところだ。「ROADSHOW」のスター名鑑からも落とされちゃったし(笑)
早くぱーっと新作ひっさげて(トム・クルーズかい)スクリーンに登場してほしいものだ。待ってます、でびしゅー様。
 


追記:その後でびしゅー様はめでたく超メジャー作品『ハリーポッターとアズカバンの囚人』にプロフェッサー役で出演することになり、一気に有名になったご様子である。センセイ役やっててもやっぱりナヨってるのかしら。楽しみ。(2004.03.12)