その2 大日本健康教教祖・みのもんた


     平日、若者のお昼休みの番組といえば『笑っていいとも!』だ。 そして、それに対抗して年輩の主婦のお昼の番組といえば、いわずと知れたみのもんた『おもいっきりテレビ』だろう。
私はあまり平日のお昼にテレビを観る機会がないのだが、ごくたまに外出先、病院の待合室などでこの『おもいっきりテレビ』を観ることが ある。


    これがなんだかすごい。必ず「からだにいいこと」についてやっているからである。
みのもんたが文字をテープで隠したパネルを持って、客席に質問する。
「はいっ、この中でガンの予防になるのはどの野菜か!?○○だと思う人、手、挙げて!」
客席のオバサンたちがうれしそうに手を挙げ、みのもんたは「こたえは、これっ!」とシールをはがし、 「こたえはニンニク!」…なんて、やっているわけである。(この時、オバサンたちはおお〜っ!などと声を出す。)


数えるほどしか観たことがないが、いつ観てもこの番組はこんな感じだ。
そして、この番組、オバサンたちの間では絶大な人気を誇っているのだ。
友達のお母様も楽しみに観ていて、何か食卓に変な料理が出てくると、それは大抵『おもいっきりテレビ』で紹介していたものなんだそうだ。


    恐ろしいのは、この番組で「体にいい」と紹介されたものは、軒並み次の日、スーパーで総売り切れ状態になることだ。
ある日私は買い物に行き、スパゲティの材料を買おうと棚を見たら、ない。ないない、ないったら、ない。
オリーブ・オイルがひとつ残らずなくなっている。しかも、「エキストラバージン」のみがなくなっているのだ。
「ピュア」のほうはしっかりと、何十本も並んでいる。
のちに義母に訊いたところ、このオリーブ・オイルがどうやらみのもんたのおすすめだったらしいのだ。 しかもご丁寧に、「エキストラバージン」でなければいけないそうだ。「ピュア」じゃダメなのだ。
おかげで私はその後しばらくエキストラバージンのオリーブ・オイルが買えなかった。


    みのもんたのおすすめ品はいろいろと変わり、ある時はニンニク、またある時はナス、ある時はアサリという具合に、番組なんて全然観なくても、突然スーパーの棚がすっからかんになっていると、私はその品がみのもんたの今日の ターゲットだったことを悟るのだ。
どうやら先日は「卵どうふ」だったご様子。 先日「こうするとガンにならないっておもいっきりテレビで言ってたよ。」と義母が教えてくれたのは、
「まずバナナを半分食べる。そしてその後緑茶を少し飲み、何時間か休んだあとまたバナナを食べる。そして…」
義母もこれにはさすがに苦笑していたが、毎日毎日そんなことをしてガンの予防、する人いるんだろうか?


    とにかく「体にいい」「ガンにならない」という言葉は、中年以上のオバサンのハートを確実にとらえる魔法の言葉のようである。
中年以降になってくれば成人病や更年期障害など体にもいろいろ不都合が出てきて、若い頃には当たり前だと思っていた「健康」が日常生活を営む上で一番気になることとして浮上してくるのかもしれない。
それはきっと私が中年になってもそうなるんだろうとは思う。
でも、ぐるぐるの大仏パーマをかけてサイババの親戚としか思えないような服で着飾ったオニガワラのようなオバサンが、目の色を変えて健康健康と言っているのを聞くと、どうしても笑いそうになってしまうのだ。


    オバサン同士でグルメバスツアーなんかに参加して、カニ食べ放題やらメロン狩りやらを楽しみ、喫茶店で耳をつんざくような声でおしゃべりしながら持参したみたらし団子をむさぼり食うその姿を見ていると、あの人たちは別にみのもんたがあれこれ教えてやらんでも、あと百五十年くらいは軽く生き永らえるんじゃないかと思ってしまう。


    それにしてもみのもんたの言う通りにして健康体を保とうとすると、

「プルーンをいれたココアを飲みながら赤ワインをたしなみ、エキストラバージンのオリーブオイルで料理した卵どうふにキナコをかけて食べ、ついでにヨーグルトも食べるんだけどその合間にはバナナと緑茶を交互に食する」
なんてことに平気でなってしまいそうだ。

健康って素晴らしい。