その5 気になる…『美味しんぼ』


     ビッグコミックスピリッツで連載が始まって十数年、数年前には映画化もされ、いまだ変わらぬ人気を誇る連載マンガ、その名も『美味しんぼ』
日本では「グルメブーム」と言われ出して久しいが、『料理の鉄人』や、『どっちの料理ショー』などなど、対決ものの人気料理番組も、元はこのマンガの「究極のメニュー対至高のメニュー」の対決からきているものと思われる。

    主人公は東西新聞社に勤める『究極のメニュー』の担当者・山岡士郎、その相棒は同僚で今は妻となった栗田ゆう子だ。
そしてマンガの内容と性質柄、毎回ふんだんに食べ物とその調理法、その食材に関する歴史などが紹介され、それはとても興味をそそるし、勉強にもなる。

   が、しかし。このマンガ、実はツッコミどころが山のようにある、一粒で二度美味しいマンガなのである。
このマンガにいちいちツッコミを入れているとそれだけで本が一冊書けてしまうくらいなんであるが、とりあえず読者が全員一番気になっているのは、おそらく何か食べた時の登場人物の反応であろう。
とにかく「美味しんぼ」の登場人物は、子供であろうが年寄りであろうが花屋のおばさんだろうが普段は無口な職人さんだろうが、今食べたものに関してだけはものすごく饒舌に解説を加えるのである。
たとえばこんな具合だ。

   「ほほう!香ばしく焦げたチーズとトマトソースが舌の上でいいあんばいに溶けあって。コクがあるが柔らかな味が口いっぱいに広がる。」
おいっ。料理記者歴40年というわけでもあるまいに、ひとくち食べて間髪おかずその感想が出てくるとは、お前は何者だ。はっまさか変装した料理記者岸さんでは?
だがまだこんなものは序の口だ。「究極のメニュー対至高のメニュー」の審査員である京都の大富豪、京極さんになるともう一段上を行っている。

「あひゃあ!カキの潮臭さがホワイトソースの香りで実に豊かに膨らんで!ああ、カキの身の甘いジュースが口の中にジュッと…」
これである。ボキャブラリーは豊富なようなのだが、あひゃあが余計だ。またこの台詞を叫んでいる時の彼の顔のマヌケさといったらないのだ。そんなんでヤリ手の大富豪が務まるのか、私は彼のことが非常に心配だ。


   だが、きわめつけの饒舌チャンピオンはやはりなんといっても『究極のメニュー』の担当者の片割れ、栗田ゆう子に違いない。
彼女はまぐれとしか思えないようないいかげんなテストの結果、ずば抜けた味覚を持っているという理由だけで山岡士郎と共に取材と称して社費で旨い物をさんざん食べ歩く給料泥棒。
しかもどんなものすごいゲテモノを食べさせられても「わあっ、新しい発見!」などとのたまって軽くかわしてしまうという、なかなかのツワモノだ。新しい発見って、それはまずいということなんじゃないのか?
「わ!強烈!磯の香りというか、潮の香りというか」。これはホヤの酢の物を食べたおねえちゃんの台詞なのだが、これがゆう子にかかると「潮の香りを濃縮したように鮮烈だけど、後口が涼やかで…」となるんである。どうよ、この胡散臭い表現力、もう栗本慎一郎なんてメじゃないでしょ。


   でも、とりあえずいままでで一番すごかったゆう子の台詞は、「ヒラメがシャッキリポンと、舌の上で踊るわ!」というやつかな。
言うか?シャッキリポン。まったりでもすっきりでもコリコリでもなく、シャッキリポン。普段シャッキリポンという言葉を使い慣れていなければこうはいくまい。私はますますこのゆう子という女への不信感が高まるのを感じるのであった。


   「美味しんぼ」の登場人物諸君、ほんとに美味しいものを食べた時というのは、声なんか出ないはずだ。せいぜい「美味しい!」が精一杯だと思うぞ。
とかなんとか言いつつも、いつも気に入って読んでいる『美味しんぼ』。これからも続々と不自然な展開で私たちを楽しませて欲しいものだ。