その3 お茶目な先輩


     結婚前に私が勤めていた会社に、Kさんという先輩がいた。
彼女は結婚していて、ふたりの子供もいるかわいい人だった。
仕事もちゃんと出来るし、芸能界情報に詳しかったりしてお茶目な人だったのだが、彼女は、天然ボケというか、おっちょこちょいというか、とにかく色々やってくれる人だった。


    ある時は、「あれっ、あれっ、電話がちっともかからない!?」と騒いでいるので何事かと思ったら、彼女は電話機の横に置いてある電卓を一生懸命 指で叩いているのだった。

…ギャグではない。私のつくり話でもない。でも彼女のボケはこんなものではなかった。

    ある日の午前中、「風邪気味だ。ちょっと医者に行って来る」と言って会社の向かいにある病院に出掛けていった彼女は、喉のトローチをもらって来て、それを舐めているようだった。
しかししばらくすると彼女は、「なんだか腕が青くなってきた」と言いだし、病院に電話をかけて「おたくでもらったトローチを 舐めたら腕が痺れて青くなった」と訴えた。
当然、病院側の答えは「そんなはずないですけどねえ…」というものだったそうなのだが、すっかり気が動転している彼女は、「とりあえず早退します!」と慌てて家に帰っていったのだ。

何時間かして彼女から電話が。

    「うちに帰って服を脱いだら、腕に輪ゴムが巻いてありました。それで青くなって痺れたのね」とのこと。
自分で巻いて忘れていたらしいのだが、何故に彼女は二の腕に輪ゴムをはめてしまったのか?しかも、家に帰るまでその事を思い出さないというのがすごすぎる。


    Kさんは他にもビルの管理のおじさんに朝入り口で地下鉄の定期を見せたり、全面ガラス張りの喫茶店の入り口がどうしても見つけられなかったりと、色々とかましてくれていた。
絶対にわざとやろうとして出来ることではないので、あんなふうに生きて行きたいものだ、といつもうらやましく思っていたものだ。

Kさん元気かなあ。