その10  デトロイト・ロック・シティ  DETROIT ROCK CITY
 

'99年アメリカ 監督:アダム・リフキン
出演 エドワード・ファーロング サム・ハンティントン ジュゼッペ・アンドリュース 
    ジェームズ・デ・ベロ  「KISS」



    オレたちKISSのためなら命がけ、デトロイトへゴーゴー!

    時は'78年、クリーヴランドに住む高校生、ホーク(E・ファーロング)、レックス(G・アンドリュース)、ジャム(S・ハンティントン)、トリップ(J・デ・ベロ)の4人組はKISSの大ファン。自分たちで「MISTERY」(Sの字体が「KISS」のあのSね(笑))なんていうコピーバンドを作ってたりもするくらいだ。
そのKISSが、今夜デトロイトでコンサートを開く!憧れのKISSにもうすぐ会えるんだぜっ!と大盛り上がりの4人。ところが、「KISSは悪魔の音楽よ〜!」が口癖の、異常に頭の固いジャムのカアちゃん(カーペンターズファン)が4人のチケットを見つけてしまい、哀れチケットは目の前で燃やされてしまうのだ。

    ガーーン…一同途方に暮れているところで、トリップが授業を抜け出してラジオのクイズに正解、見事KISSのチケットを4枚ゲット。
やったあ!とばかりに意気込んでデトロイトへ向かう4人、ところが、ラジオ局に行ってみたら、トリップのささいなミスでチケットがもらえなくなってしまっていたのである。

そんな、ここまで来て…というわけで、どうしてもKISSのコンサートを諦めきれない4人、自力でチケットを手に入れようと、おのおの独自にチケット入手大作戦を企てるのだが…


    70年代、ディスコブームを描いた映画はけっこうあるが、これはやはり70年代後半に一世を風靡したハードロックバンド『KISS』のライブチケットを手に入れるために死に物狂いでがんばっちゃうアホアホ高校生たちの、愛すべきお話だ。タイトルの『デトロイト・ロック・シティ』は、同名のKISSのヒット曲。

 私はKISS世代ではなく、'78年頃のKISSの最盛期といえば、中高生のおねえさんが学生カバンに「PAUL★STANLEY」なんて書いたステッカーを貼ってたり、来日したKISSがドリフの『8時だヨ全員集合』に出て、ジーン・シモンズがべろべろべろ〜んと長い舌から鶏の血を振りまいて話題になってたなーというくらいの記憶しかない。
けれど、世代は違えど、私もこの子たちと同じくらいの年頃には、大好きな来日アーティストのチケットを買うのに徹夜で並んだり、公衆電話を占領して指が痛くなるまで電話をかけまくったりしたものなので、何が何でもKISSのライブを観る!というこのおバカ高校生たちの気持ちはヒジョーによくわかるのだ。

    この映画、ストーリーも個々のエピソードもいちいち可愛くて笑えるのだが、78年当時の流行りものや雰囲気がいろいろとわかってそこも興味深い。ファラ・フォーセットみたいな髪型のおねえちゃんや、ハードロックファンと対峙するディスコミュージックファンの「ステラ」という連中。「ジャーニーやベイ・シティ・ローラーズのコンサートとはわけが違うんだぜ」という台詞、まだまだ元気だった頃のデトロイト。

 そんな懐かしげな画面を観ながら、オープニングを飾る『ラヴ・ガン』をはじめとするKISSのヒット曲はもちろんのこと、シン・リジィやパンテラ、ヴァン・ヘイレンなどの70年代の名曲がオリジナルとカバーを交えてこれでもかというくらいに流れるサントラを聴いているうちに、気分はすっかり「KISSのライブに行くぞーー!」という感じに盛り上がってくるのである。
そこで流れる曲はシン・リジィのカバー『ヤツらは町へ』。そして、4人がクルマでデトロイトに乗り込む時にかかっているのはチープ・トリックの『サレンダー』。歌詞には「ママとパパがカウチでイチャイチャしててボクのKISSのレコードを放り出しちゃった」というのがあって、このスルドすぎる選曲に思わず「うまいっ、座布団一枚!」と膝を叩いてしまうのだ。

    4人はこの後ダフ屋からチケットを買うために男性ストリップに挑戦しちゃったり(E・ファーロング。すごいガタイの筋肉男が立ち並ぶ中での見事なまでの幼児体型、あのう、確かコイツってとっくにハタチ過ぎてんスけど…妙な路線で残ってて面白い。)コンビニで子供をカツアゲしようとして逆にカツアゲされちゃったりと、チケットを手に入れるためにいろいろなトホホ作戦を繰り広げるのだが、おバカなドタバタエピソードばかりに見えて、そのほんの一晩の間にそれぞれにちょっとしたロマンスが生まれ、ちょっとだけ大人になったりするという成長物語もちゃんと盛り込んでいる。
ラストのKISSのライブシーン(曲はもちろんタイトルチューンの『デトロイト・ロック・シティ』)では、特にKISSに思い入れのない人でも感動すら味わえること間違いなしだと思う。

    『デトロイト・ロック・シティ』は、KISSファンはもちろん、そうでなくても、何かに夢中になった記憶のある人にならば、青春時代のあの熱狂を思い起こさせてくれる一本だ。
ところでこの映画、私はやはり愛すべきビートルズファン映画・ロバート・ゼメキス『抱きしめたい』へのオマージュに違いないと勝手に思っているのだが、どうなんだろう?



追記: 後々、私が色気づいて洋楽を聴くようになってから改めて聴いたKISSの曲は、派手なパフォーマンスのわりには、とてもまっとうできちんとしたハードロックだった。子供の頃見た鶏の血ベロベローンのおかげで、「めちゃくちゃな人たちだ」という刷り込みをされていた私は、なんかちょっとだけ拍子抜けだった。でも好きだ、KISS。