その6  グッドフェローズ  GOODFELLAS

'90年アメリカ 脚本・監督 マーティン・スコセッシ
出演 レイ・リオッタ ロバート・デ・ニーロ ジョー・ペシ ロレイン・ブラッコ ポール・ソルビノ



   ウッディ・アレンと並んでニューヨークを代表する映画監督・マーティン・スコセッシが、FBIの証人保護制度を受けて名前も住む場所も変えた実在の元マフィア構成員の男をモデルに、マフィアの内情を描いた映画。
グッドフェローズとはマフィアの通称のこと。
   主人公ヘンリー(レイ・リオッタ)は、幼い頃から憧れ続けたマフィアの世界に入るべく、家族の反対を押し切って12歳で地元のボス、ポーリー(ポール・ソルビノ)の使いっ走りを始める。
「俺たちは互いにワイズガイ(賢明な男たち)と呼び合うんだ。」
みんなの憧れの兄貴、ジミー(R・デ・ニーロ)や、血の気の多いトミー(ジョー・ペシ)にしきたりや身の振り方を教わりながら、いっぱしのワイズガイになり、結婚もし、栄華を極め、抗争を経験し、そして最後には麻薬で逮捕され、兄貴分のジミーをFBIに売り渡してヘンリーは証人保護制度を受ける。


   実在の元ワイズガイをモデルにしているだけあって、この映画は興味深いエピソードが盛りだくさんだ。
マフィアといっても、ヘンリーたちは小さな地元の街を仕切っている一家の下っ端にすぎない。そして、ヘンリーは「イタリア人じゃないから」決して幹部にはなれないのだ。
イタリア人で幹部になれるはずのトミーはあまりにも血の気が多すぎて結局は始末されてしまうのだが、注目すべきはこのトミーだ。


   ジョー・ペシ演じるトミーのキレぶりはすさまじい。一言からかわれただけでバーの給仕を射殺する。ライバル一家の大物をリンチにかけて殺してしまう。ペシはこの映画でアカデミー助演男優賞を受賞している。この世にも恐ろしいキャラクターは、同じくM・スコセッシの、『カジノ』('95年)でもペシが演じた役とそっくりであるが、笑ってしまうのは、この、リンチにかけられて瀕死になったボスを車のトランクに詰め、埋めるためのスコップを取りに家に帰るシーンだ。


   寝ていると思っていたはずのトミーの母親にとっつかまってしまったヘンリーたちは、そこで、イタリア人の食卓といったらこれ、の、スパゲティを無理やり食べさせられ、トミーは口うるさいイタリア人ママに小突かれながら、からきし頭が上がらないのだ。
 ワイズガイご一行様はそこでにこやかに談笑しながら食事をし、トミーは「ママ、ちょっと包丁貸してくれる?」と出刃包丁を借り出す。
そして何事もなかったかのように、人里離れた場所でトミーは母親から借りた包丁で瀕死のボスにとどめを刺して埋めてしまうのだ。


   この、下っ端ゆえに死体の始末をちゃんとしなければいけないところが、現実のつらいところだ。そこには『ゴッドファーザー』('72年)のドラマチックな華麗さはみじんもない。
ヘンリーにしたところで、あれほど憧れ、世話になった兄貴分のジミーを最後には売り渡し、ちゃっかり自分は監獄行きを逃れるのだ。現実は厳しい。


   ヘンリー役を演じるレイ・リオッタが光っていていい。このところ輝きが失せてきた感があるが、この映画では彼のするどい眼光が非常に生きていると思う。
ヘンリーの妻を演じるロレイン・ブラッコも、いかにもヒステリックで、はすっぱな感じを出していた。
街を仕切っているポーリーにはポール・ソルビノ(ミラ・ソルビノの父だそうだが、信じられない(笑))。彼はいつも古びた自分の軽食屋で脂っこいソーセージなんかを炒めているのだが、実はちゃんと裏の仕事をしている。これら脇役陣のキャスティングもとてもうまい映画だと思う。


  もう一つ注目すべきなのはサントラだ。ヘンリーのエピソードに沿って、30年にわたるアメリカのヒット曲が次々に流れる。これが非常に良かったのだが、残念ながらサントラが入手困難だ。…買っておけばよかったなあ。