その4  海外特派員  FOREIGN CORRESPONDENT

'40年アメリカ 脚本 チャールズ・ベネット 監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ジョエル・マックリー ラレイン・デイ



   『レベッカ』('40年)と同年に作られたA.ヒッチコックのアメリカ進出第二弾作品。

第二次世界大戦直前のヨーロッパ。仕事でヨーロッパに派遣され、オランダの大物政治家の暗殺を目撃してしまったアメリカ人の海外特派員は、それをきっかけに予期せぬ陰謀にまきこまれてゆく。
ヒッチコックの代表作のひとつ『北北西に進路を取れ』('59年)などでお得意の巻き込まれ型サスペンスである。


   とにかく、息もつかせないスリルに満ちた展開、斬新なカメラワーク、車、海、飛行機でのアクションと、今時の何億ドルもかけた特撮アクション映画など一笑に伏してしまえるのではないかというくらいに映像的にも凝っていて、手に汗握る映画だ。

特に注目したいのは、前半、舞台がオランダというだけあって、巨大な風車が立ち並ぶところへ主人公の特派員が逃げ込むシーンがあるのだが、そこで、風車が風向きと逆に回っているという謎の演出が、視覚的にもアイデアとしても「うまいっ!」とうなってしまうくらいだ。


   サスペンス部分も相当のものながら、ちゃんとヒロインとの恋の進行も盛り込まれ、ラスト近くにも意表をついた二転三転のどんでん返しがあり、モノクロながらこれが'40年につくられた映画かと思うと、ヒッチコックというのはつくづく才能のある人だったのだなあと思ってしまう。
ヒッチコック監督の作品は数あるが、あまりにも有名な『裏窓』('54年)、『ダイヤルMを廻せ!』('54年)、『鳥』('63年)などに比べると、この『海外特派員』はいまひとつ知られていないというか、引き合いに出されることが少ない。
出ている俳優さんもほとんど無名の人ばかりだ。
だが、誰が何と言おうと(誰もなんにも言わないと思うが)私の一番好きなヒッチコック映画は、この『海外特派員』である。