広州だより 22 ちょっと暗い広州便り     1999.2.18

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 今日の私はポロシャツ1枚。天気は曇りだが暑くもなく寒くもなくといういい気候でです。また、春節休みのせいもあり、比較的空気もきれいです。

 夕方、冬休みで学生の姿のまばらな学内を歩いていますと、ほんとうにのどかな心持ちになります。爺さん婆さんが何人か公園で夕日に照らされながら話をしています。悪ガキ達がその周りを走り回っています。壁に貼られた夕刊を何人もの人が見ています。牛乳配達の兄ちゃん達が自転車に乗ったまま話をしています。開け放たれた窓から、テレビを見ながらにぎやかに夕食をとっている家族が見えます。

 そんな風景を眺めながら、散歩がてらの買い物に大学の西門を出ていきますと、今日は道ばたで苺をたくさん売っていました。もう苺の季節なのです。夕方なのに売れ残ったのでしょう、竹のかごにまだたくさん残っている苺を、おじさんは「甘い苺だよ。食べてごらんよ。」と差し出します。こう言う場合はたいてい甘い。埃っぽい道ばたなので試食する気にはなれませんでしたが、帰りに買おうかなと思いながら通り過ぎました。

 この道ばたの物売りは本当はいけません。いけませんがおおっぴらです。そして安くて便利です。下町といった感じの曁南大学西門付近にはVCDやCD、文房具、民芸品、地図、カレンダーやぬいぐるみ、焼芋、焼栗、果物、小鳥、下着、靴下、おもちゃ・・・・ほんとうにたくさんの物売りがいます。多いときには100m位の間に40〜50件もいます。

 最近はアダルトVCDも売っています。一人で歩いていると若い兄ちゃんが「日本の黄色(アダルト)VCD。20元」とすり寄ってきます。アダルトVCDは日本製がブランドです。アダルトとラジカセは何と言っても日本製がいいらしいです。しかし、これは危険だから近寄りません。公安が来るとこの黄色VCD売りに対してはどこまでも追いかけます。噂によると逮捕するそうです。

 黄色VCDの取り締まりは厳しいですが、普通の物売りなら公安が来ても立ち退かせるだけです。バイクに2人乗りの公安が来ますと、物売りは我先に逃げます。お金を払おうとしていた人は幸運でです。払う相手がどこかに行ってしまいましたから商品はそのまま自分の物となります。あわてて商品を落としていく人もいます。落とし物はもらってもいいですから、通行人がはラッキーということになります。年寄りの物売りだと「ほら、早く行け」と逃げるのを待ってやる親切な(?)公安もいます。



 さて、用事を済ませ戻ろうとしますと、薄暗くなった道の前方から天秤棒の片一方に苺、もう一方にマンゴスチンを担った40歳くらいのおばさんがやってきます。まだ苺はたくさん残っています。今日は苺売りが多かったのでまだ売れ残っているのでしょう。「1斤(500g)いくら?」と近寄りますと、突然、公安がいつもの通りバイク2人乗りでやって来て、何事か叫びました。苺売りのおばさんは「私は歩いていただけ」と大声で言い訳します。バイクの後ろの公安は飛び降り、おばさんの天秤ばかりを取り上げて、まだ何事か叫びます。
天秤ばかりは苺を売っていた動かぬ証拠です。秤を奪った拍子に苺がバラバラと道に落ちました。おばさんが「ほんとうに歩いていただけ!」と叫んだとき、公安はおばさんの苺の入ったかごを踏みつけました。かごは一瞬にして砕け、苺は道を赤く染めます。おばさんは呆然と立ちつくします。おばさんに値段を聞こうとしていた私も唖然としていますと、公安は私を睨み、あっちへ行けと手で合図をします。

 日本人が犯罪にかかわったとき、警察や公安は3つのパターンをとると、知り合いの中国人ガイドから聞きました。一つは、外国人だから仕方ないと「あっちへ行け」という場合。日本人だからと徹底的に追及する場合、そして賄賂を要求する場合。何にしても公安はエラそうな人が多いですし、日本人嫌いの人が多いですから、日本人が事件とかかわり合うと欧米人以上に面倒になる場合が多いと彼は言います。

 今、公安は私を外国人とは思っていないでしょうが、かかわり合いになると困ったことが起きるかもしれません。ですから、強い憤りを覚えながらもその場を立ち去りました。振り返ると公安は徹底的に苺とマンゴスチンとかごを踏みつぶしています。おばさんは抵抗せず立ちつくしています。振り返っているとまた公安と目が会ってしまいましたので、そのまま帰ってきました。帰り道には、その他にも苺を踏みつぶした跡や壊れたかごがありました。



 確かに道ばたで物を売るのは法律違反です。しかし、そうかといって・・・。広州郊外のお百姓は全国的に見ると比較的裕福です。それでも道ばたで果物を売るような人はそれほどでもありません。おそらく朝早く苺をつみ、大事にかごに乗せ、汽車かバスに揺られて市内までやってきたのでしょう。まだまだ売れ残っていましたから、6〜10元くらいで泊めてくれる安宿か、あるいは野宿をして売れるまで頑張るのでしょう。

 そんな事を考えると、本当に憤ろしい。この1年半で大好きになった中国ですので、こういう弱者がいつまでも弱者である構造、権力の横暴が許される場面を見ることは私にとって大変悲しいことです。穏やかな広州の夕暮れが一瞬にして昏くなってしまった今日でした。
苺うり VCD売り
上の文とこのおばさんは関係ありません
VCDを売っています

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