■政策特集 地域公共交通対策待ったなし!

長野県の地方公共交通を担う私鉄の多くが、今大きな転換を迎えようとしている。12月松本電鉄、川中島バス、諏訪バスをかかえるアルピコグループが突然、債務超過による私的整理に動き出すが、再建計画には赤字路線バスの廃止が含まれる。県南部の信南交通も路線バスの直接経営からの撤退を発表など、私鉄各社は赤字経営を余儀なくされてきた。こうした中で、県西部の木曽おんたけ交通は、平成18年の試行期間を経て19年4月から路線バスの運行を全面的に自治体からの委託契約に切り替え、親会社の撤退に伴う借入金返済、減損処理により黒字転換をはかった。このおんたけ交通に社民党長野県連合中川博司幹事長と木曽総支部中村博道幹事長が取材を行った。

■過疎化の中で赤字経営が続く

「おんたけ交通」は、昭和49年に黒字となったことはあるが、以降32年間営業損益は赤字の連続であった。乗合バスは毎年3千万円から1億円近い赤字。車両や土地などの売却、国や県からの補助金で穴埋めをしてきたが、従業員の退職金が重くのしかかり、平成10年には親会社の名古屋鉄道株式会社(以下名鉄)から5億円を借り入れ、一端全員の退職金を清算、諸手当の廃止など経営改善を実施した。このとき退職金の借り入れを含めて借り入れ総額は188千万円にまで膨れ上がっていた。

名鉄も、利益のあがらない部門からは撤退をはじめていて、いつかは公共バスからも撤退することが予想されていた。

こうした赤字経営の背景には、いうまでもなく人口の減少、マイカーの増加がある。木曽郡全体の人口は、昭和35年がピークで67千人、それが平成10年には42千人まで減った。現在は32千人である。マイカーは、昭和402,345台だったのが、平成10年に31,201台にまで増えた。おんたけ交通の年間輸送人員は昭和40年のピーク時で約270万人だったのが平成10年には82万人まで落ち込んでいた。従業員も270人から現在60人になっている。しかし、おんたけ交通の路線バスは、郡内でただ一つの総合病院である県立木曽病院への通院、子ども達の通学の足、またJRへの乗り継ぎ手段として欠くことのできない公共交通であることには変わりは無い。(写真は41日から運行が始まった木曽町と伊那市を結ぶごんべえ号の前でおんたけ交通委員長と書記長)

■運行を自治体主体に切り替え

そこで会社は、このままでは会社が成り立たないことを訴え、運行する沿線自治体に事業主体となってもらうよう交渉を始めた。

平成12

開田村高校生契約輸送、南木曽町スクールバス契約

平成13

高齢者福祉乗車(木曽福島町・三岳村・王滝村・上松町)、三岳村高校生契約輸送、三岳村・開田村・木曽福島町一部スクールバス契約

平成14

高齢者福祉乗車(開田村)、大桑村循環バス契約

平成15

大桑村スクールバス契約

平成16

上松町スクールバス・同町内循環バス契約

平成18

路線バスの完全委託契約へ移行(木祖村・木曽町・王滝村)

平成19

路線バスの完全委託契約へ移行(南木曽町・上松町)

平成10年の経営改善から10年がかりでの移行であった。この移行は簡単にできたわけではなかった。当初、各町村の財政負担が大きいことから県は大反対で「補助金がなくなって本当にいいのか」と言われた。

推進したのは、実は平成の大合併だった。合併協議会の中で、事務事業のすりあわせをしていく中で、各町村によってバラバラになっている交通政策を整理する必要に迫られたのだ。そこで、「木曽町生活交通確保・充実検討会」で協議を続けてきた。出された結論は、路線バスの経路変更や停留所の設置が自由に行える、道路運送法第21条により、自治体が経営の主体となって、運行を「おんたけ交通」に委託する契約輸送方式だった。

加えて、おんたけ交通の発行済株式総数の55.4%を保有する名鉄が平成1810月その株式の全部を木曽町・上松町・南木曽町・木祖村・王滝村・大桑村及び木曽広域連合へ無償譲渡し、経営権を地元自治体へ委譲した。これが、「自分たちのバスだ」という意識付けになったという。

*旧道路運送法第21条:地方自治体は原則として乗合バス事業を直接手がけることはできないため、市町村が貸切バス事業者に当該路線の運行を委託し、路線維持を図ろうとするもの。

■住民一人当たり1万円の負担

町村合併も紆余曲折があった。平成1310月に木曽郡11町村合併による「木曽市」構想がもちあがったが、南木曽町と大桑村が離脱、山口村は岐阜県中津川市と合併、楢川村は塩尻市と合併、木祖村と上松町、王滝村は自立を選択し、残る木曽福島町、日義村、開田村、三岳村が平成17111日に合併し「木曽町」が誕生した。

同じ町の中では一律200円にしたが、旧日義村では福祉バスは無料で運行していたものを有料化、遠隔地と市街地の運行など複雑であり、特に料金設定に頭を悩ませた。

平成19年度は、地域交通システムへの支出は18千万円、収入は王滝村からの負担金1100万円、運賃収入2500万円、県からの補助金(無医地区解消事業)100万円(平成20年度で終了)・コモンズ交通システム補助金500万円で、町の負担は約13800万円、人口が13,385人だから、町民一人当たり約1万円の負担で、この地域交通システムを運行していることになる。

町は、現在事業者、利用者代表などでつくる「地域公共交通会議」で、住民アンケートをとり路線の検討、輸送人員の少ない路線は乗合タクシーにする、福祉バスはデマンドバスを導入など、利用者の利便性を最重点に取り組んできた。町の担当者は「まさか自治体でバスの運行をするなんて思ってもみなかった。知恵を出し合い21条で運行を始めた途端に、道路運送法が改定され新4条で運行しなければならなくなり、申請が煩雑になるなど苦労は多い。私たちは、バスの運行も住民福祉だと思っているが、町の財政も厳しくなる中で、今後運賃の値上げも考えなければならないという意見も出ている。この1年で利用者は8%ほど伸びてきている。住民一人ひとりが自分たちのバスだということを自覚してもらって、利用することを考えて欲しい」と語っている。

*平成18年道路運送法の改定による新4条:乗合旅客の運送形態の多様化に対応するため、一般乗合旅客自動車運送事業について、路線を定めて定期に運行するとの要件を撤廃するとともに、地域の需要に応じ当該地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するために乗合旅客の運送を行う者について、地域の関係者が合意している場合に運賃及び料金の規制の緩和を行う等乗合旅客の運送に係る規制の適正化を図る。

■楽観できない今後の見通し

 一方、黒字となったおんたけ交通も内情は厳しい経営状況は続く。町の財政状況によっては、採算のあがらない路線バスが廃止となれば、1路線だけでもすぐに300万、400万の収入不足となる。他の事業者の参入にも危機意識をもっている。「現状では、新しいバスの購入などとても考えられない状態だが、高速バスにしても貸し切りバスにしても競争が激しい中で、設備投資をしていかなければお客は離れてしまう」と決して楽観できる状況ではない。

ここで働く労働者も大変だ。従業員60人のうち正規労働者は25人、平均年齢は47.8歳で賃金は月214,000円。3人の子どもを抱えている人は「現在48歳だが、妻と共働きで、借金して子どもを学校に出している。65歳まで働いても、その借金を返せるかどうか」と生活不安を訴えている。(写真は県立木曽病院前)

■人・まち・環境にやさしい地域公共交通を住民とともに

昨年国は、地域公共交通活性化再生法をつくった。これは、経営が厳しい地域のバスや鉄道などの公共交通の再生を目的とし、地域の自治体や住民、事業者が協議会を設立し再生計画をつくり、国に認定されれば、3年間の試験運行費や車両購入費などの事業費を国が2分の1補助する制度。

長野県も、「生活交通システム構築支援事業」として、国の支援制度の活用が困難な市町村の支援(補助率3分の1)と、民間バス路線廃止に対する緊急対応支援(同2分の1)に分けて対応することを決めている。

長野県内では、今年度国が導入する「地域公共交通活性化再生法」に基づき、現在19の市町村・地域が申請に向け準備を進めている。

こうした県内の動きを受け、社民党県連合は、昨年自治体政策フォーラムで、地域公共交通政策について研修を行った。おんたけ交通のある社民党木曽総支部は、かつて国鉄の分割民営化問題のときにつくった「住民の足を守る会」の活動の再開をしようとしている。再建を行うアルピコに対しては支援署名を、226日県労組会議などで25,269人分の署名を提出。路線バスの直接経営から撤退を表明した信南交通の地元では、社民党が中心となって「人・まち・環境にやさしい飯伊地区公共交通研究会」を立ち上げるなど、県連合全体で地域公共交通問題を考えている。

取材をしてみて感じたことは、規制緩和・官から民への構造改革路線が、地域を疲弊させてきた。結果として、地域の住民の足や福祉を守るため規制をし、民から官へ移行している。こうした取り組みを進める自治体の出現は嬉しいが、交付税の削減で自治体財政も厳しく、どこまでもつのか心配になる。国は、自らの政策の失敗を結局住民に押し付け、その責任を取ろうとしない。現在、道路特定財源の議論がされているが、本当に困っている地方公共交通対策に使途を広げるべきだと感じた。

2月28日信濃毎日新聞

314日信濃毎日新聞

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