モンキーと私



  私とモンキーの初めての出会いは、昭和44年の事でした。当時私の家では、本物のお猿さんを飼っていました。そのお猿さんは
父が会社から帰ってきて、家族団らんしているところ、背広のポケットから何かゴソゴソ動く物を取り出しました。 一同うしろずさり。
なにそれ? 白いハンカチに包まれた、なにやら
生き物らしい。そっとハンカチを広げると、中には手のひらサイズのお猿さんが!
エッ!どうしたのコレ。 買ってきたんだよフーン買ってきたんだ。何気ない会話でした。まだ4歳だった私にとって家にお猿さんが
いるなんて、とても驚きでした。しかし、我家ではなんて事の無い出来事でした。そして数日後、会社から帰ってきた父が外に呼び
ます
オーイ!猿を買ってきたぞー! エッ、もう一匹買ってきたの? 外に出てみると、そこには子供の私位の小さなバイクが・・・
お猿さんは? これだよ! モンキーと言うんだぞ! へぇー。モンキーって言うんだ。 これがモンキーZ50Aでした。私の家の2件
横がホンダのお店だったのですが、そこで新車で発売されたばかりのモンキーが可愛かったのでついつい買ってしまった
たしかに可愛い。赤いボディに銀色のタンク。自転車のような両手ブレーキ。我家にお猿さんが、もう一匹仲間入り
こうしてお猿さんとモンキーの生活が始まりました。
モンキーのハンドルには、前カゴが取り付けられそこにはお猿さんがちょこんと乗って、次に私がタンクの上に座布団をひいて乗り
次に母が乗って、まさにサーカス団のように、お買い物にお出かけです。街へ出かけると、注目されるのは、言うまでもありません。

誰もが振り返って、異様な光景に笑っています幼心に私は、この瞬間が楽しくてたまりませんでした。どこへ行くのにもモンキーで
行こうとせがんだ私です。


こうして衝撃的な出会いのお猿さんとモンキーでしたが、お猿さんが亡くなり、そして少し大きくなった私は、小さなモンキーに恥ずかしさを覚え、近ずく事さえ遠ざけていました。いつの日かモンキーは誰にも相手される事なく、ホコリをかぶって外に出されていました。
そして、私は進学の為上京。 21歳の私にとってモンキーの存在すら記憶にありませんでした。 しかし、ここで運命の別れ道がま
っていようとは・・・。
休みに入って、実家に戻った私の目に、何か違和感が? いつも見慣れたモンキーの姿は無く、その場所には、ピカピカのスクーター
が・・・。アレッ? ああ、モンキーなら、先日このスクーターを買うときに、下取りに出しちゃったよ!     ガーン
いつもあるのが当たり前だったのに、当たり前の物が無い。何か自分の幼稚園時代の思い出を捨てられてしまったような・・・。
慌ててバイク屋さんへ駆け込みました。 我家のモンキーは、しっかり店先に並んでいました。お金を返すから戻して欲しい!
世の中そんなに甘くはないですよね。数日前の事とは言え、買取り値段とはかけ離れた値段に・・・。半分納得がいかないまま諦めることに。
私にとっては、お猿さんが死んだ次にショックな出来事でした。
それでも気になってお店を何度か覗きましたが、高い値札が付けられたモンキーが数日後には、
店先から消えていました。
もう2度と逢う事もないのか。

私の心の中には、悔しさだけが残りました。ここから私のモンキー探しが始まりました。いつかは思い出のモンキーを再び我家へ。
できる事なら、我が家にあったモンキーを探したかったですが、個人に渡ってからは行方知らず。 せめて同型&同色のモンキーを。

しかし、なかなか同程度のモンキーは、手に入りません。記憶が美化されているのかも知れませんがいい事しか浮かびません。
モンキーあるよと声を掛けてもらっても、どれもピンときません。 仕上げられてピカピカ。手を掛けずサビてボロボロ
一回手放すと、同じ物を手に入れることの難しさを知りました。いつの日か、関係の無いモンキーたちも、自然に集まっていました
幼い頃の記憶というのは、頭から離れません! モンキー探しには、終わりがないんですよねー。
モンキーと私とは、切っても切れない絆があります。  なんて可愛いのだろう!


おかげさまで、やっと以前我家にあったモンキーに近い、当時物のモンキーに出逢う事ができました。 これで、モンキー探しの旅も落ち着きそうです。モンキーが我家からいなくなっていなければ、こんなにモンキーにこだわらなかったかもしれません。今考えると良かったのか、悪かったのか・・・?  だから私は手に入れた物を手放すのが怖いのです。不要な物は別ですが、基本的に、入った物は出て行かないかな・・・。                         
                         モンキーと私でした。  おわり