客商売
 それまで住んでいた公団住宅が子供の成長とともに手狭になってきたため、もう少し広い家に引っ越しをすることに決心したことから話は始まります。
 高い買い物ですから、引っ越した後で後悔をしないようにあちこち見て歩きました。

おじさんの雰囲気が・・・
 ある物件を見に行ったときのことですが、新築で日当たりもよく、間取りも適当で、子供の通学も便利で、価格も予定していた範囲内でした。しかし、そこを案内してくれた不動産屋のおじさんが、なんとなく雰囲気の暗い人で、色々説明してくれるのですが、この人に住宅の購入という大事なことをまかせる気になれず、結局ことわりました。家内の意見も同様で、「あのおじさん、どうも信用する気になれない・・・」と言っていました。

おねえさん、勉強不足では?
 別の物件を見に行った時ですが、不動産セールスレディーとでも言うのか、若い女性の係員が対応してくれた時がありました。この女性、約束の時間に20分程遅刻して現れ、物件の案内をしてくれたのですが、説明が大雑把で、何がこの物件のセールスボイントなのかが自分でもつかめていないようでした。こちらが色々質問すると、「調べてから後日連絡させてもらいます」が続出し、自分が売っている商品に対する勉強不足が露呈していました。こんないい加減な社員教育しかしていない会社では、社員教育だけでなく建築もいい加減に行われているのではないかとまで勘ぐってしまい、到底購入する気にはなりませんでした。

親身になって
 それまで住んでいた家のすぐ近くでマンションの建築が進んでいたのは知っていたのですが、かなり値段が高そうだったので選択の対象外にしていました。あちこちの物件を見て歩いた後、家族で食事をしながら、「後学のため見るだけ見ておこうか」という話になり、モデルルームを見に行きました。そこで応対をしてくれたKさんという女性は25、6歳の若い女性でしたが、にこやかでさわやかな応対で、商品に対する知識も豊富でした。色々説明をしてくれた後、「せっかくですから、近くから現場を見てみませんか」と言ってモデルルームから歩いて10分程の所にあるマンション建設現場まで案内をしてくれました。その道中での話が不動産屋特有の「売らんかな」の話ではなく、自分のいま住んでいる所の話や一戸建を売ってマンションに引っ越してくる人の話など、その話し方は商売人としての話し方ではなく、住まい選ぴの参考になれぱという感じで、こちらの身になって話をしてくれているようでした。
 間取りなど他の条件も良く、やや予算オーバーの物件ではありましたが、結局ここを購入することに決めました。新居に引っ越してから、あのときKさんが応対をしてくれていなけれぱここに住む決断はしていなかったと思いました。

動物戦争
 ありさん、ぞうさん、きりんさん、べりかん、パンダ、etc・・・、と並べるともうおわかりと思いますが、引越屋さんの競争も激戦のようです。子供の成長とともに過ごした9年間の住まいは、いつのまにやら膨大ながらくたで埋め尽くされており、とても素人の手で引越ができる状態ではなく、引越屋さんのお世話になることにしました。家内が奥さん連中のネットワーク網で相談すると、あっという間にどこの引越屋さんが値段が安いとか、仕事が丁寧とかの情報がどっと寄せられたのにぴっくりするとともに、ロコミのすごさを見せつけられました。評判の良さそうな業者を3社ほど選ぴ見積りをとりました。 私が会社へ行っている間に各業者の担当者が家の中を見に来て家内に料金を示したのですが、A社は30万円程、B社は25万円程、C社は午後からなら10万円でという見積りでした。てっきりC社にするのかと思って家内の話を聞いてみると、C社の担当者は非常に怖い感じの人で高圧的だったので頼みたくないというのです。A社の担当者は感じは悪くなかったが、あまり細かな所を調べもしないで大雑把に値段を出していたが、B社の担当者は感じのいい人で、いろいろ説明してくれた上に自転車の台数まで調べてから値段を出しており、一番信用がおけそうだったB社にしたいというのです。結局B社に20万円で依頼することになりました。日頃スーパーのチラシを見て、10円でも安い買い物をすることに躍起になっている家内が、このような時は値段よりも担当者の人柄で依頼先を決めようとするのを見て、女性の目とはこういうものかと勉強させられました。

20万円は高くない
 さて引越当目の朝9時になり、B社のトラック2台と作業員6名がやってきました。仕事の段取りを一通り説明してくれた後、荷物の積み込み作業が開始されましたが、この荷物の積み込み作業は、度肝を抜くものでした。それまで住んでいた家は団地の5階でエレベーターのないところでした。ですから、荷物は全て階段を使って下ろさなけれぱなりません。5階から引越業者のリフトを使って荷物を下ろす方法もあるのですが、これは割高になるので使いませんでした。なにが度肝を抜いたかというと、彼らの仕事振りです。荷物を山ほど持って1階のトラックまで持って行ったかと思ったら、すぐに5階までの階段を軽々と駆け上がったきて、また山ほど荷物を持って1階へ運ぴ、また5階まで駆け上がり・・・。時問不足でまだ荷造りができていない物もたくさんあったのですが、手際よく専用の毛布のような布で品物を傷めないように包んでは運ぴ出してくれました。大きな冷蔵庫や分解しないと運ぴ出しは困難ではないかと思われたエレクトーンもさっとカバーを掛けて2人がかりで狭い階段を絶妙なタイミングで回しながら一つの傷も付けずに下ろしてしまいました。作業開始から1時間程でほとんどの荷物は1階のトラックに収まってしまい、見ていた私たちは、あまりの手際良さと彼らの疲れを知らない働き振りに圧倒されてしまいました。私も家内も口をそろえて、「さすが引っ越しのプロだ。これなら20万円は借しくない」と言って彼らの邪魔にならないようにしていました。新居への荷物の搬入も降りしきる雨の中で行われましたが、自分たちは濡れても荷物は濡らさないという精神が徹底しており、運ぴ込まれた荷物は雨に濡れることもなく、また新居にも傷をつけられることもなく無事引っ越しが終わりました。

客商売は人間性の勝負
 新しい家の選択と引っ越し業者の選択。思い起こして見ると、そのいずれもが応対した人の人間性によって私たちの心が大きくゆり動かされ、いくつかの選択肢の中から然るべき選択がなされたように思います。また当初は高いと思っていた引っ越し料金もそのブロフェツショナルな仕事ぷりから決して高いとは思わなくなったことは、客の心情に十分気を配りながらその客に最善を尽くすことができる、「プロ」のなせる技だと思います。
 それは一朝一夕になし得ることではありませんが、常にそれを目指して自分自身を磨く姿勢がなけれぱ、何年かかってもプロにはなれません。
 最近はこうしたプロの心と技を持った人が少なくなったように思いますが、我が家の引っ越しは、いい仕事をするプロに巡り会えたことで満足できる引っ越しとなりました。

 もう、この引っ越しから5年が経ち、今ではすっかりこの家に慣れ、満足して生活しています。

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