地球帝国の興亡


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 これが神内護の初の実戦となった魔鳥との戦いである。車長の神保一曹が魔鳥を発見でき部隊にいち早く警告を発する事ができたのは実に幸運だった。
 発見後に迅速に対空射撃で応戦できたのも心構えができていたからだろう。電子の目のみに頼らない肉眼による警戒の重要さは今も昔も不変である。
 しかしこの日記を見るとまさに間一髪で魔鳥の光砲を回避できたのは操縦手の神内の反射的行動のお陰だったとも思える。
 歴史に『もしも』はないが、あの時彼が操行を切るのが一瞬遅れていたら自分が今こうして書を書けることは永久になかったかもしれない。人の運命というのは実にわからないものである・・・・・
 しかし、個人的には技量よりも何よりも天宮の送った鉢巻のお陰で彼は生き残ることができたと思う。
 人の純粋な思いには説明のつかない力があるという。彼女の彼の無事を思う気持ちが超反応で戦車の操行を切らせたのだと考える。
 突然なにを非科学的な、と言われる方も多いだろう。たしかに根拠を示せと言われるとどうしようもない。
 説明はできないがそれでも自分は一片の疑いなくそれを信じる。なぜならまったく同じ覚えが数え切れないほどあるからである。
 第二次生存戦争時にわが地球帝国から、はるか遠くの星国、メーシャ神皇国の少女から受け取った御守り『ルメルーナの聖石』この小指の先ほどの小さな青い石があったお陰で自分は第二次人類生存戦争及びローザリア絶対戦争を生き残ることができたのだと思っている。
 今も肌身離さず自分の首にぶら下げてある。彼女のことを思いながら眠りにつくと今も夢の中で彼女と会える、不安にさいなまされた夜に何度励まされたことだろうか。
 天宮が神内に送った鉢巻もこの聖石と同じだけの思いが中にこめられていたに違いない。事実、彼のみならず歴代の神内家の人間の身を常に守りつづけたのだから。
 もちろん自分も第二次生存戦争時に身に付けていた。今は不肖の息子の元にあるはずである。


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 彼の日記に戻ると興味深い記述がその後に続く。
 砲手の神楽坂が戦車砲で魔鳥を撃墜した事に車長の神保が驚嘆したと興奮気味に日記に記されているのである。
 書いている彼も興奮していたようだった。
 正直なところ、なぜそこまで興奮しているのか最初疑問に思った。確かに最初の戦果には人は多かれ少なかれ興奮するものだが(自分もそうだった)少々大げさではないだろうか?
 しかし、自分の考えは現代戦のレベルのみを判断材料とし当時の軍事技術のレベルを無視した誤った考えだったことに気がついた。
 当時の陸上部隊、特に戦車部隊や歩兵部隊等の空中からの攻撃に対する脆弱性と地上部隊隊員の不安は相当なものだったようで、事実その後の彼の日記には上空から飛来する空魔生命体群への恨みや怒り、そして不安と恐れを記した文がたびたび出てくる。
 今でこそ、戦車や機兵の対空射撃能力はあって当然となっており、事実、戦車砲や機兵砲での低・中空飛行目標への対空射撃訓練は平時において幾度となく行なわれ、第二次人類生存戦争時には低空を突撃してくる空魔生命体に対空砲撃の嵐を浴びせ掛けた。
 通常の地上目標への射撃競技会と同様に実地された年に一度の対空射撃競技会では鍛えた成果を数万人になろうかという大観衆の前で惜しげもなく披露したものだった。
 さらに戦車砲及び機兵砲用に開発された低空飛行目標への対空射撃も可能な近接戦用砲弾であるEISS(爆裂焼夷散弾)等や第一次人類生存戦争時とは天と地の差があるFCS(射撃統制装置)の助けもあった。
 絶え間ない訓練と技術向上の果てにやがて飛行目標はやや不利ではあるが天敵ではないという程度にまで地上部隊の飛行目標への認識は改まった。
 その結果、完全に対空戦準備を整えた多数の地上部隊への航空機のみによる攻撃は自殺行為以外の何物でもないと帝国空軍において結論付けられたのだった。
 別に対空戦に限った事ではないが猛訓練と技術向上を帝国軍に課した最大の理由こそが第一次人類生存戦争時の戦訓からだったのだ
 しかしこの後彼らは妨害を受けることなく東京に前進することができた。攻撃目標として最適な機甲部隊の隊列への対地攻撃を空魔生命体はなぜ行わなかったのだろうか?
 そう疑問に思い戦史を調べるとこの日、空母『しょうかく』『ずいかく』『キティホーク』を中心とする海上自衛隊と在日米軍及び中国海軍で構成された『連合艦隊』が沖縄海域にて海魔生命体群と激突し、上空直衛、及び機動部隊攻撃のために日本及び周辺に展開していた空魔生命体群の大半がこの海域に集結した結果、日本上空の制空権は人類のものとなり、結果として陸上部隊の移動を助けたことになった。
 またもや推測となるが、ここで空魔生命体群を艦隊が身をもって吸収していなかったら、機甲部隊は東京にたどり着くことができずに壊滅していたかも知れない。
 そうなれば後の歴史は確実に変わっただろう。もっともすべて後知恵といわれればそれまでだが。


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 ちなみにこの時代の艦隊は現在とは全く違いすべて水の上に浮かんでいた。帝国空軍の主力であり象徴であった空中空母も空中戦艦もまだ存在してはいない。
 しかしこの『しょうかく』の名前は後の地球帝国空軍の初の超巨大空中空母のクラス名『翔鶴級』として受け継がれることになった。
 なお地球帝国空軍の空中空母、翔鶴は三代目である。二代目がこの時の海上自衛隊の『しょうかく』であり、初代が第一次人類生存戦争よりさかのぼること約六十年前、第二次世界大戦時(大アルジア・ローザリア絶対戦争の通称である第二次世界大戦には非ず)の日本海軍の空母だった。
 記念すべき初の空中空母のクラス名として使用された名に恥じないだけの活躍を翔鶴は行なった。その証拠にこの生存戦争において最初の戦歴となった沖縄沖海戦から連合艦隊と海魔生命体群との最終決戦となった南氷洋海戦まで主要な海戦のほぼ全てに参加して、ハワイ沖海戦において沈没寸前となるほどの損傷を受けながらも不死鳥のように甦った。
 帝国空軍が先代の栄光よもう一度とその名を初の空中空母のクラス名としたのもなるほどもっともな話である。


 あとがき

 お久し振りです。更新が遅くなってしまいました。ちなみに以前CGで描いた『しょうかく』とはこの空母です。次回のタイトルは『鉄光嵐舞』です。
 その前に番外編でしょうか?