地球帝国の興亡・番外編


    「破滅の夢」


 夕食をとった神内・天宮・相馬・上高の四人組はPX(売店)の食堂・青葉から出ると、三階のリラクゼーションルームへ向かった、そこは訓練に明け暮れる隊員の疲労を少しでも癒すために設けられたスペースなのだが、実際はもっぱら雑談室となっていた。
 階段を上っていくと、クラシック音楽が階上から聞こえてきた、ここでは俗に言う、癒し系音楽が流れていた。(噂だと森のざわめき、小鳥のさえずり、草原の音といった系統は演習場でいつも聞いてるよ!と言う強固な意見により中止になったという、真相は謎だ)
 「この曲・・確かなんだっけ」相馬が聞いてきた、俺は聞いた事はあるが曲名が出てこない、天宮も同じようだ、「相馬士長、この曲はカノンですよ」俺達が悩んでると上高がいともあっさりと答えた。
 上高君凄いなぁー、天宮が感心したように言った、上高は軽く笑いながら「いや、良くクラシック聞いているから判っただけですよ」どこか照れたように言い、「そういえば神内士長、なにか相談したいことがあるって、なんですか?」上高は中隊の戦車パーク(駐車場)での車両整備の最中に神内士長が課業終了後に話したいことがあると言ったのを思い出した。


 「そうだ神内よ、一体なんの話だ?えらく真剣な顔をしていたが」相馬も上高の言葉で自分も神内に話したいことがあるから付き合ってくれと言われたのを思い出した。
 「まさか・・・」相馬はそう言って口の端を歪めてニヤリと笑うと、神内の肩をガシッと組み耳元に顔を寄せ、片手で声が漏れないようにしながら言った。
 「おう戦友よ、そっち系に疎い御嬢をその気にさせる方法が知りたいのか、ええ?」その瞬間、神内は凄い勢いで顔を相馬から引き離し「ち・違う!それは違うぞ!相馬!」神内は顔を赤くしながら否定した。
 「その見事なまでの慌てぶりが肯定してるじゃねーか」相馬は相変わらずニヤニヤ笑いながら楽しんでいる。
 「ねぇ?二人とも何の話してるのぉ?」天宮が興味津々で仲間にいれてよぉと二人に尋ねてきた、「いや穢れた大人の話だから御嬢は知る必要などありやせん、なぁ神内」「あ、ああ」おい相馬よ、ちょっと待て!一緒にするな、穢れてるのはお前だけだ!と神内は真剣に思った。
 天宮はそんな二人を見ながら「いいもん!教えてくれないなら別にいいもん!」と頬を膨らませ拗ねたそぶりをした、「まあ御嬢、明日外出でもした時に神内にゆっくりと教えてもらえばいいだろ」相馬がニヤニヤしながらまた神内を困惑させることを言った。
 その意味を全く理解していないだろう天宮は「う〜ん、そうだね、神内君に教えてもらおうかなぁ〜、あっ!でもだったら今度、相馬君も上高君も一緒に出かけようよ!、で三人で教えてよ、いいでしょ?」と受け取り方によっては大変な誤解を招いてしまうかもしれないことを言った。
 今まで、耳を傾けていただけだった上高が豪快に咳き込み、相馬は腹を抱えて笑い、神内は一気に顔を真っ赤にした。そんな三人の姿を見た天宮は「三人とも変なの・・・」と小首を傾げたのだった。
 「いや、ほんと笑わせてもらったわ。で相棒よ真面目な話、なんだ?」相馬が馬鹿笑いをやめ、真面目な顔になって聞いてきた、神内も真面目な顔になり「とりあえず、座ろう。それから話す」と言いリラクゼーションルームに入った。
 リラクゼーションルームの中には十人くらいの隊員達がいて、小説を読んでいる人や仲間と雑談をしている人がいた。上高は窓際のあまり人がいないソファーを指差し、「あそこにいきましょう」と言った。
 そこは壁が全面ガラス張りとなっていて、各隊舎の明かりや、麓に広がる御殿場市街の明かりをはっきりと見渡すことのできる場所で、ちょうど先客もおらず話をするにはよさそうだった。
 神内はソファーに腰を下ろすとジャージのズボンのポケットから財布を取り出すと、上高に端にある自販機でジュースを人数分買ってくるように言い、4人分の金額を渡した。 自販機へ向かう上高を一瞥し目の前に座っている天宮と相馬に向かって、「まあ、おごるよ飲んでくれ」と言った。
 上高が買ってきたジュースを受け取り、「頂きます」と天宮と上高は言い、相馬は「ま、相談料と思ってありがたく頂きますか」と言った。
 そして神内は「三人とも笑わないで聞いてくれるよな?」と真剣な表情で言った。三人が静かに頷くのを確認すると神内はジュースを一口飲み、話し始めた。


 俺は夢を見た、そう夢だ、今まで想像すらしたことのない悪夢だ。え?天宮、そんな生易しい物じゃない、もっとも俺も全部覚えている訳じゃない。一部分しか覚えてない、でもその一部分だけでも十分震えがくるものだ、あれは多分東京だ、なんでだって?あれは都庁だ、見間違えるはずがない。
 想像できるか?焦土と化した東京を、きっと終戦直後の東京もあんな感じだったんだろうな、なに相馬?そのくらいでびびるなって?、さすがに俺もその位じゃびびらんさ、とりあえず聞いてくれ。
 その廃墟のそこら中になにか焼けて黒焦げになった物があるんだよ、俺も最初は何かわからなかった、だが調べてみようとどうしても思えなかった、知らない方が良いことがあると無意識に思ったんだろうな。そうして廃墟の間を歩いていると妙に視線を感じるんだ、どこかに人がいるのかと思ったが誰もいるわけがなかった、俺はその時その焼け焦げたものの正体に気づいてしまったんだ。
 それは人間だったんだ、人間のなれの果てだったんだ。俺は東京という名の巨大な火葬場の中にいたようなものだったんだよ。
 視線がすべて俺に集中しているように思えた、なぜこんな姿になっているのか、そしてお前だけがなぜ生きているのか理解できないと言われているように感じた。
 その時周りに充満している臭いのがなんなのか気づいたんだ。今でも臭いが鼻に残ってるような感じがする、その時、俺はたまらず胃の中身をすべてぶちまけたんだ。


 そこまで言ったところで、あの地獄のような光景と臭気を思い出し神内は激しい嘔吐感に襲われた。
 「神内くんっ、大丈夫!」天宮が背中をさすりながら、そっとジュースを差し出してくれた。神内はジュースを一口のみなんとか嘔吐感を静めると再び続きを語り始めた。


 さっきの続きだけど、胃の中身を全部吐き出した後、顔をあげると場所が変わっていたんだ、残念だけど、いや良かったのかもしれないが場所は覚えていないんだ。
 でも何があったかは覚えている、キュウマル(九〇式戦車の事)が見えた、少なくとも中隊規模だ、え?上高、どこの部隊だって?、うちの中隊だろう、天駆ける彗星のマークを付けた中隊はうち以外にはないだろう。もっとも見たことのない別のマークも一緒に付いていたが。
 訓練じゃない、明らかになにかと戦ってたんだ、敵の姿が見えたわけじゃなかったが、なのになんでわかるかって?
 俺の目の前で一両のキュウマルが吹っ飛んだんだ、弾薬に引火したんだろうな、ハッチというハッチから炎が噴出した瞬間、砲塔が空中に吹き飛んだんだ、あの砲塔が数十トンもあるようには見えなかったよ。そのくらい宙を舞ったんだ。
 俺は燃えつづける車体の車番を見た瞬間、硬直したよ。今もはっきり覚えてる、九五―三四五〇だ、ん、上高どうした?そう、そのとうりだよ、燃え盛る炎に包まれていたのは、お前の愛車三四五〇だったんだ。


 ・・・いやな夢ですね。そう言った上高の顔が少し青ざめているかのように感じた。「そのあとどうなっちゃったの?他の戦車はどうなったの・・・」天宮の声が少し震えているように感じる。
 俺の背中においた手からもかすかに震えが伝わってくる。「わからない・・・、そこでまた場面が変わったんだ」見ると3人ともジュースは全く減ってはいなかった。


 また場所は覚えていない、果てしない闇の中にいるような感じだった。いきなり目の前に二人の人間が現れたんだ。
 二人とも着剣した八九式小銃を持ち銃剣格闘をやっていたんだ、訓練じゃなかった。証拠に戦闘服が血で赤くなってきて、銃剣にも血が付いていた。
 まさに死闘だったよ、見ていた俺にも二人がお互いに向ける殺意が伝わってきて、鳥肌が立つのを感じた。
 その二人が密着状態で小銃と小銃同士のつばぜり合いを行なったんだ、その時二人の顔がはっきり見えた、その時俺は凍りついたよ。
 その二人は血の涙を流しながら戦っていたんだ、これだけ殺気をだしながらもこれは本心じゃないと相手に言いたいかのようだった。
 そして、その顔には見覚えがあった、見間違えるはずがない、自分自身の顔を見間違えるはずはないだろう。
 そう他でもないこの俺だ、そしてもう一人は相馬、お前だったのさ、その後はわからない、そこで場面が変わったからな。
 その後どうなっただって?、覚えていないんだ。天宮がいたのは覚えている、でもそれ以外は思い出せない、あまりにも恐ろしい、口にだすことすらはばかられる事だった。
 凄まじい恐怖と狂気があったのは覚えている、だが他は思い出せない、でもその事をむしろ喜ぶべきだろうな。思い出したら俺は正気ではいられない気がするから・・・。


 「どう思う、俺は恐ろしいよ、しかもこれは一部にすぎないはずだ・・・」天宮も相馬も上高もなにも言わなかった。
 天宮は目に見えてガタガタ震えてる、上高も青ざめてるのがはっきりわかる、相馬はなにか思うところがあるのか腕を組んで黙ってる。俺自身も天宮と同じようなものだろうと思った。
 「神内士長、そ、それ全部本当なんですか・・・」上高の声に震えが混じっているのがわかった、当然だろう、自分の最後の瞬間の光景を克明に言われたのだ、何の根拠もない夢とはいえいい気持ちはしないだろう。
 「神内くん・・・」天宮は瞳を潤ませながら俺の目を見つめ「上高君がやられたりしないよね、相馬君も神内君も戦ったりしないよね・・・だって、だって・・みんなとっても強いんだから、みんな助けあうんだから・・・」そこまで言うと天宮の瞳から涙が零れ落ちるのが見えた。


 「がああ〜っ!」突如、相馬が叫び声をあげて髪の毛をかきむしりながらソファーから勢い良く立ち上がった!上高も神内も天宮も一体何事かと相馬を見た。まさか発狂したかッ!神内は本気でそう思った。
 「かぁ〜やっとられんッ!、何が悲しゅうてこの花の金曜日の夜にこんな陰気な話せねばならんのじゃッ!」
 あまりのことに3人とも先ほどまでの暗い雰囲気はどこへやら、突如暴走した相馬の変貌ぶりに三人そろってぽかんと口をあけ魂の抜けたような顔をしてしまっている。
 「大体なんだその最初のシーンはッ!そうならんようにするのが俺らの使命だろがッ!んなイカサマ予言者のようなこと言ってどうするッ!、上高よもっと操縦訓練せい!お前がやられたら俺ら他の人間まで迷惑するんだぞッ!、神内よ俺と互角の勝負だと!夢と現実を見比べろッ!柔剣道競技会で神楽坂3曹に開始1秒後に一本とられた最強のヘタレ男にどうすりゃそんな奇跡を演出できるんだッ!そんな事になった暁には、銃尾打撃の一撃で安らかに気絶させてやっから安心せい!」
 そこまで怒涛のごとく言うと、一気にジュースを飲み干した、そしてまだ暴走トークは終わりではなかったらしく「大体、最後はなんだ、最後は!お前、本当は暴走して御嬢を押し倒して力ずくで犯っちまう夢でもみたんじゃねえのか!、どうせてめえいつもオカズは御嬢にしてるんだろうが、この変態妄想野郎がッ!違うかッ!」
 「まったく違うっ、変態は手前だ、一緒にするなこの野郎!」神内は夢の内容はまったく違うがオカズの件に関してはあたらずしも遠からずだったのでムキになって否定し挙句の果てには「俺は絶対に天宮をいや女性をそんな穢らわしい視点でみた事は一度たりともないッ!!」と全く白々しいにも程がある嘘を力強く宣言した。
 二人のもの凄い剣幕に入り込めなかった、常識人の上高は「ま・まあ神内士長も相馬士長も周りの迷惑になりますから・・・」なんとか場を取り繕うべく間に入ったが上高をもってしても二人のオーラに気おされ最後まで言うことができなかった。
 しかしどうやら二人にも上高の言いたかったことは伝わったらしく静かになった。相馬はソファーにどっかりと腰を下ろすと「まあ、どうだ神内、忘れられたか?」と言ってきた。
 「ああ、完全に何処かへ吹っ飛んだよ、って誤魔化そうとしていないか?」神内の冷静な一言に「何を言う、いつまでもネガティブな考えにとらわれているお前を見かねてのことだ、むしろ感謝せい」と明らかに心にもないことをさらりと言った。
 「それにこういう時は楽しく飲んで忘れるに限る、というわけで隊員クラブ(居酒屋)にいくぞ、ほれ、御嬢も上高も座ってないでいくぞ、なに俺と神内の奢りだから気にすんなって、さあ立てたて」
 いまだにショックから立ち直っておらずぽけっとしている天宮と上高の腕をつかんで立たせるとPXの向かいにある向かいにある隊員クラブへと俺達を幼稚園児を引率するかのように先頭にたって歩いていった。
 歩きながら、俺は完全に悪夢が吹き飛んだことに気がついた、例え結果的にそうなっただけだとしても。
 ありがとう相馬よ、お前はやはり俺にとって最高の戦友だよ、今日は思い切り飲むぞ、神内は晴れやかな気持ちでそう思った。サイフの中身だけが気がかりだったけど。


 先頭を歩きながら相馬は思っていた。本当に飲んで馬鹿騒ぎして忘れたいと思っているのは俺の方だろうなと。
 なあ神内よ、実は俺も昨日の夜お前と同じような夢を見ているんだよ、もっとも俺はほとんど思い出せないがね、だがお前が見た俺と戦っているシーンは話を聞いて思い出せたんだよ。
 神内お前は結末は見えなかったと言ったな、だが俺は見たんだよ、そうこれは言えなかった、口にだすと現実になっちまいそうな気がするからな。
 それは、つばぜり合いまでは同じだ、だがその後があってな、神内よ、お前が血まみれの姿になって倒れてるんだよ。
 天宮がもはや物言わぬお前にすがりついてひたすら泣きじゃくっていたよ、とても正視には耐えられない光景だった。
 その側でお前の血肉で真っ赤に染まった銃剣を持って立っている奴がいたんだよ、恐ろしいまでの狂喜の表情を浮かべてな、そいつがゆっくりこっちを向いたのさ、その狂喜の笑顔をみて俺は夢から覚めたんだ。
 そう、そいつは他でもないこの俺自身だったのさ。頼む酒よ、どうかこの忌まわしい記憶を消去してくれ、出来ることなら二度と思い出すことがないように。
 幸せな笑顔を浮かべて話をしながら歩いている神内と天宮の二人を見ながら相馬はこれが現実にならないよう願った。


    破滅の夢 終


    あとがき


 で、今回の話はちよっとホラー風(?)にしてみたんですが、多少なごむ要素も入れようと思ってみたらこんな話になってしまいました。新キャラ、相馬士長が登場しました。 神内士長と天宮士長とは新教隊時代からの良き仲間です。彼には神内と天宮の一向に進まない関係をなんとかすべく奮戦してもらいます。
 しかし二人の見た夢はなんだったんでしょうね。ただの悪夢ならば良いのですが・・・(書いた本人が言うな)
それではまた。感想いただけると嬉しいです。