地球帝国の興亡・番外編


    「お祭り」・前編

    1

 まだですかね、上高が時計を見ながら神内に言った。
 「まあ、女の人は用意に時間がかかるからな、もう少し待とう」
 神内はWAC隊舎の玄関を見ながら思った。
 天宮は浴衣を着ると言っていたけどどんな感じなんだろうか、俺には一度も着ている姿は見せてくれなかったな・・・と考えながら二人は自販機コーナーの椅子に腰掛けジュースを飲みながら待った。
 「ごめんね〜二人とも待った〜?」
 神内と上高は二人同時に声の方に顔を向けた。
 無茶苦茶可愛い・・・ピンクの浴衣は天宮にぴったりだ、それに風呂上りらしくほんのり染まった肌としっとり濡れた髪もなんか妙になまめかしいくて・・・。
 「どうしたの?神内くん」
 天宮はジュースの飲み口を口に当てたままなぜか硬直している神内の顔の前で手を左右に振った。
 神内はようやく我に帰り、いや全然待ってないよ、むしろ今来たばかりだと答えた。
 そう神内が言うと天宮は笑顔で答えた。
 「よかった、待ってるかと思って心配しちゃったよ」
 笑顔で話す二人を見ながら上高は思った、神内士長は少々、いや、かなり天宮士長に甘いのではないかと、いくら『恋は盲目』とはいえたまには少し厳しく言った方が良いのではないか・・・と。
 これでは、二人がいずれ一緒になったら神内士長は苦労するに違いない・・・上高は笑顔で会話する二人を見ながらふとそんな事を考えた。
 「神内士長、待ち人いまだ来たらずです、申し訳ないですが二人で先に行ってください自分はもう少し待ちます」
 上高は二人に先に行くよう促した。
 「いいのか、じゃあ先に行ってる」
 神内は天宮と並んで正門へ歩き出した。
 「いいの神内くん?上高くん待たなくて」
 「まあ大した距離じゃないし、それに・・・」
 そこまで言って神内は口ごもった
 「それに?」
 「ま・まあ、たまには二人きりってのもいいんじゃないかな?」
 い、言ってしまった、恥ずかしい・・・。
 「う・うん神内くん・・・」
 驚いたことに天宮は駐屯地の中だというのにためらうように俺の手をそっと握り、肩に頭をよせてきた。
 思わず周囲を見回した、いくらなんでも駐屯地の中でこんな事をしているのはさすがにやばいと思ったが、幸い人気はなかった。
 「でもさすがに表門についたら一旦離れてくれよ」
 俺は今照れていることを自覚しながら言った。


    2

 「二人そろって外出か?いいなあ、おい!」
 今日は警衛勤務で表門の歩哨を勤めている相馬が冷やかすように言いながら二人の身分証と外出証を確認している。
 「ああ、ちょっとお祭りに行ってくる」
 「そうか、まあ二人とも気をつけてな」
 神内と天宮は不動の姿勢をとり敬礼を行い、相馬は八九式小銃のおいひもを左手でしっかりと握り右手で答礼した。
 「帰り、なにか土産買ってくるから」
 神内は敬礼した手を下ろすと相馬に言った。すると相馬は軽く笑いながら答えた
 「気にすんな、別に今日は特外(特別外出の略)なんだろ、二人で泊まってきてもいいんだぞ」
 「それってどういう意味だよ」
 神内は相馬の言ってる事の意味を理解しながらも一応聞いた。
 「だからそういう意味だよ、もういいから行ってこーい!」
 相馬は駐屯地の外へ出た二人がそっと手をつなぎ天宮が頭を神内の肩へよせる姿を見たとき、心の奥底でなにかがキリキリと痛むのを感じた。


    3

 「わぁ、すごーい!、神内くん凄い人出だね!」
 境内の中には様々な出店が建ち並び威勢の良い声が聞こえ、わた飴、水風船等を持った子供達が元気に駆け回っている。
 「ねぇ神内くん、わたし達もなにか食べない?」
 どうやら子供達が持っている焼きそば、りんご飴、チョコバナナを見て食べたくなったらしい。
 「じゃあ、なににしようか」
 俺が尋ねると天宮はきょろきょろと食べ物を売っている屋台を見回しながら言った。
 「う〜どれも食べたいよぅ・・・神内くんやっぱり全部はだめぇ?」
 「却下、2個くらいにしときなさい、それに太るぞ」
 俺は単刀直入に答えた。
 「むうぅぅ〜じゃあチョコバナナとたこ焼きで妥協するよぅ、神内くんのいじわるぅ・・・」
 結局、天宮は賞金クイズの回答者ばりに悩んだ末にこの二つにした、これはもちろん俺のおごりだ。
 出店で買ったチョコバナナを天宮に差し出すと、よろこんで天宮は受け取りすぐに口に運んだ。
 「ありがとうっ、あれ、でも神内くんは食べないの?」
 天宮はチョコバナナを受け取るとすぐに口にはこんだ。
 「俺はいいよ、気にしないで食べてくれ」
 そしてまた二人で歩きだした。
 歩きながら天宮は美味しそうにチョコバナナを食べている、舐めてはぱくつくその姿はまるで身体だけ大人になってしまった子供のようにも見える、口の周りにトッピングやチョコがついてしまっているのも全然気にならないようだ。
 「神内くんも一口食べなよ、甘くておいしいよ、ほら、あーんして」
 天宮がにっこりと微笑みながら食べかけのチョコバナナを俺に差し出してくる。
 「いや、別にいいって・・・むぐぐぐ」
 俺は天宮に無理やりチョコバナナを口に咥えさせられてしまった。
 口の中にチョコとバナナの甘い味が広がる、確かにこれは美味しい、俺の分も買っても良かったかな。
 ・・・でもこれさっきまで天宮が思い切りはむっと口に咥えていたんだよな、ぺろぺろチョコをなめてたんだよなぁ・・・。
 そう思うと同じ甘さでもチョコレートの甘味とはなにか一味違う甘さも混じっているような気がする、あくまで気のせいだろうな・・・ああ、気のせい気のせい・・・。
 「ねっ神内くん、やっぱり美味しいでしょっ、そうだ、わたしもう一本買ってくるからそれあげるよ」
 俺ははっとして天宮の方を向くと彼女は俺がチョコバナナを味わっている様子を笑顔で見ながらそう言うと、先ほどの屋台へ走っていった。


    4

 俺は苦笑した、もし俺が今考えていたことが天宮に知られたらどんなことになるだろうな。
 神内君のヘンタイ!バカ!とか言われるんだろうなぁ・・・顔には出てなかったよな、さすがに。
 そんなことを考えていると天宮はすでに支払いを終えて帰ってきた、しっかりとその手には二本のチョコバナナを握り締めている。
 二本も食べるのか・・・本当に太るぞ。それでもさば折をかけたら一発で折れてしまいそうな細い腰を維持しているのだから大したものだ・・・・
 世の人間が天宮や神楽坂三曹のような体質の持ち主ばかりだったなら数多あるダイエット産業はおそらく壊滅するだろう。
 「おまたせぇ、はい、こっちは神内君のぶん、わたしのおごりだから食べて」
 笑顔でチョコバナナを差し出してくる。俺は礼を言って受け取るとまた口に運び歩き出した、やっぱり少し恥ずかしいけどお互いの手を絡めて・・・
 なんだろう?さっきから天宮は道行く女の人の浴衣の胸元を見ては自分の胸元と見比べている、しかもそのたびにわずかに顔をしかめてる、あ、ちょっと笑顔になった、今度は思い切りブルーになった。
 ついに俺は尋ねてしまった。
 「・・・なあ、さっきから何一人で百面相やってんだ?」
 どうやら天宮は完全に自分の世界に入っていたらしい。
 「うぁっ驚いたぁ、なぁに神内君?」
 「何きょろきょろしてるんだ?、なんか不審者みたいだぞ」
 俺はからかうように言った。
 「ぶーっ、もう失礼だなぁ神内くん!」
 天宮は頬を膨らませ怒るふりをしながら言った。
 「じゃあ、どうした?」
 俺が尋ねると天宮は急に下を向いてもじもじとしだした、何か言いにくいことらしい。
 「うん・・・あのね神内君・・・ちょっと耳近づけて・・・あのね・・・」
 俺は話を聞いた瞬間、あまりの衝撃に思わず飲んでいたジュースを吹き出しそうになってしまった。
 「い・いやそんなことはない、ちょっと他の人よりも小さいだけだろ、気にするなよ」
 俺は自分自身の本音『小さいというより無きに等しい、さらにはっきり言うと無い』でもこれは絶対に言えない、を実に優しく遠まわしに答えた。
 しかし天宮は妙に鋭いところがある、そう言った俺の目をちらっと見るとズバリと指摘した。
 「ウソつき、ほんとは神内君、ちっちゃすぎてないようなものとか思ってる」
 いきなりキッパリと言われてしまった、無茶苦茶鋭いぞ天宮!それとも俺はすぐに思ってることが顔にでるからなのか?。
 「な、なに言ってんだ、んなことこれっぽっちも思っちゃいないって、お、俺がそんな事を気にするような人間に見えるか?」
 俺は多少しどろもどろになりながらも否定した。
 「だったら、神内君そんな遠くを見ながらじゃなくて私の顔を見ながら言ってよぉ、そんなんじゃぜんぜん説得力ないよぅ」
 か、顔を見ながらですか。
 「・・・わかった、俺の目を見て判断してくれ」
 俺は天宮の目をじっと見つめて言葉を待った。
 「・・・・やっぱり、嘘ついてる」
 なんでわかるんだ!俺はそんなにわかり易い人間なのか?このままいくら違うと言っても天宮は理解してはくれないだろう・・・
 いや最悪の場合、想像したくもないが嫌われてしまうかもしれない、もしそんなことになったら俺のこれからの自衛隊生活はもうお先真っ暗だぞ。
 これは絶対になんとかしなければ、その時、考えが浮かんだ、・・・失敗したら変態にも思われるかもしれないが。
 「・・・すまん、本当はそう思ってた、取り繕おうとして天宮を傷つけてしまった・・・すまないっ!」
 「やっぱりそう思ってたんだ・・・別にいいよ・・・気にしなくて」
 天宮は寂しそうに言った。
 「でもな、俺は・・・実は・・・」
 うう、いざ言おうすると口篭もる、そりゃそうだ、最悪の場合、自分で自分のトドメをさしかねない発言になるだろうから。
 「・・・小さいほうが好みなんだよっ!」
 ・・・ああ言っちまった。恐る恐る天宮の顔を見るときょとんとした顔をしている、意外すぎる言葉に固まってしまったのだろうか。
 「あのなんというかモデルのようなのよりも俺はこう・・・なんというかすっぽり手の中にこうすっぽり収まるくらいの方が好きなんだよ、だから天宮くらいのほうが俺にとってはいいんだ、うん」
 反応がない。
 ・・・ああぁ天宮なにか反応してくれよ、このままじゃ俺破滅だぞ、たのむからなにか言ってくれ、俺は心の底から思った。
 「・・・ほんとう?、私みたいにちっちゃくてもいいの?・・・」
 ああ、天宮がようやく口を開いてくれた。
 「もちろんだとも、全然構わないさ」
 そう答えると天宮が笑顔になった。
 「嬉しい、神内君はそんなことで人を見ることはしないというのはわかってたけど、でもやっぱり神内君も本当は大きい方がいいのかなって思ってたの・・・」
 まあ、大半の人間はそうかもなと俺は思った。
 「・・・でも神内君がちっちゃい方がいいって言ってくれたから嬉しい、いくら神内君がそんなの気にしなくても好きな人の好みと同じほうがやっぱり嬉しいもん」
 天宮はいつもの笑顔にもどり俺に言った。
 ああこれだよ、天宮のこの笑顔だよ、俺はこの笑顔を見るためなら俺はなんでもするだろうよ。
 「そうだよ、俺も天宮のその屈託のない笑顔が大好きだよ、だってさ、もし天宮に嫌われたらどうしようて俺さっきからずっと考えていたんだから」
 天宮ははっきりと言われてちょっと恥ずかしそうに頬を染めながらも嬉しそうに聞いてきた。
 「えへへ・・・そうなの神内君?じゃあもしも私に嫌われちゃったらどうなちゃうの?」
 まいったな、そんなこと聞きますか。
 「う―ん、そうなったら最悪の場合、一本松の台の松の木で首吊っちまうかもしれないな」
 俺は冗談まじりに笑いながら答えた。
 「それ本当?そんなに私のこと好きなの?・・・だったら・・・嬉しい、とっても嬉しいよぅ、神内くんっ!」
 天宮はまるで小さい子供が欲しい玩具を買ってもらえた時のように大喜びし、なんと俺に抱きついてきた!。
 『うわあぁぁぁあ!』あやうく俺は絶叫をあげてしまうところだった、一瞬頭の中が真っ白になりかけたが、すぐにここは公衆の面前であることを思い出し、はっと周囲を見回した・・・最悪だった。


    5

 なんと子供達の集団が俺たちの方をにこにこ笑ったり、ひそひそ話しながら見ているじゃないか!、しかもなお悪いことにほとんどが見知った顔でうちの中隊の人の子供までいた。
 「あ、天宮、悪いが離れてくれ、大至急だ、子供達がさっきから俺たちをずっと見ているんだ」
 天宮は周囲を見るとその瞬間にがばっと離れた、それは当然だ。
 「な・なぁ、お・お前たち、一体いつからそこにいたんだ」
 俺はできる限り平静をよそおいつつ子供達に尋ねた。
 「えっと、お姉ちゃんがお兄ちゃんの耳もとでなにかしゃべったあたりから、あの時のお兄ちゃんの反応ほんとすごかったね―」
 浴衣姿の女の子が答えた、見事に見られているよ。
 「それに、お兄ちゃんちっちゃい方がいいってうまくごまかしたけど、それってある意味やばいよね―」
 「ひょっとしてお兄ちゃんほんとはヘンタイだったりしてー?」
 おいおいなんで最近の子供はこんな言葉を知ってるんだよ・・・一体全体どうなってんだ、最近の子供の知識は、これはある意味恐ろしいぞ。
 天宮を見ると、もう恥ずかしさのあまりうつむいてしまっている、俺だって子供達の口撃にはもうこれ以上は耐えられそうに無い。
 「でもなぁ、せっかくいいシーンだったのにやめちゃうんだもんなぁ」
 と言う男の子に女の子が答え返した。
 「そりゃあ、私たちがみてたからよ、でなきゃやめるはずないもの」
 おいおい、勝手な想像するなよ・・・
 「そんな訳無いだろう、やはり自衛官たるもの公衆の面前で抱き合うなど控えなければならない事だからだよ、いつ何時でも品性を保つのは俺や天宮の義務だからさ、難しいかもしれないがわかったかい?」
 あれだけ喋っていた子供達が静かになった、そうか俺の考えを理解してくれたのか?
 しかしそれは一瞬だけだった、また一気に全員で盛り上がりだした。
 「またまた柄にもないこと言っちゃって〜」
 「ごまかすために言ったってことがミエミエだよ、兄ちゃん」
 「ほんと言い訳が下手だね〜♪」
 「難しい言葉つかったってそうはいかないよっ!」
 ・・・おれの考えは完璧に違ったようだ、ああだれか俺たちを助けてくれ・・・そう思った時聞きなれた声がした、この声は!。


    6

 「おう、神内と天宮じゃないか。それにガキ達も皆そろってどうかしたのか、ん?」
 神保一曹がやって来た、すると女の子が言った。
 「神保おじさん、聞いてください、神内お兄ちゃんと天宮お姉ちゃんそこで抱き合っていたんですよ、ぎゅーっと」
 ほかの子供達も口々にさきほどの状況を説明している、俺と天宮はもう子供達に返す言葉もでてこない。
 神保一曹は子供達の説明を相槌を打ったり、笑い声をあげながら聞いていたが、一通り子供達が喋り終えると子供達に言った。
 「よし、そろそろ皆この二人を解放してやんな、訓練が忙しくてな、なかなか二人きりにはなれないんだ、たまにゃあ二人きりの時間を満喫させてやろうや」
 神保一曹がそう言うと俺ではどうしようもなかった子供達が素直に同意してくれた。俺とはなにか違うようだ。
 「じゃあ、兄ちゃん、姉ちゃんと仲良くね」
 「天宮お姉ちゃん、ケダモノになっちゃうかもしれない神内お兄ちゃんに充分気をつけてね〜」
 俺と天宮は力なく去っていく子供に向かって手を振りながら思った。助かった・・・と。
 「神保一曹ありがとうございます、おかげで助かりました・・・」
 俺と天宮は心から礼を言った。
 神保一曹は去っていく子供達の背を見ながら苦笑まじりに俺達に言った。
 「大変だったようだな、まあ、子供達を悪く思わないでやってくれよ、あいつらはあいつらなりにお前らのことが好きなのさ、応援しているつもりなんだろうな、連中としては」
 「はい、それは判ってます、元気ないい子供達です・・・ただなんであんなにませてるんでしょうか、最近の子供達は」
 俺は心底そう思った、天宮よりもそっち系の知識があるんじゃないかとまで感じた。
 「さあなぁ・・・俺も最近のガキどもは正直良くわからん、ま、俺もそろそろ行くわ、女房も待ってるしな、二人とも仲良く楽しめよ」
 そういうと神保一曹は去っていった。
 「あ、そうそう、神内よ、やる時はちゃんとつけるものつけんの忘れんなよ、なんか不安だから言っておく」
 いきなり途中で過激ナ一言を付け加えた。
 女の子の前でいくらなんでもそれは無いでしょう!
 「じ、神保一曹!」
 俺はあわてて叫んだが神保一曹は俺と天宮に背を向けたまま右手で手を振りながら行ってしまった。
 「神保一曹もみんなも行っちゃったね、神内君じゃあ私達もいこっか」
 天宮が声をかけてきた。
 「そうだな、でも少し疲れちまったな、すこし休んで行かないか?」
 さっきのやり取りで天宮が少し疲れていたように見えたので俺は言った。
 「うん、じゃあ噴水広場のベンチで休もうよ」
 俺と天宮は噴水広場へ向かって歩き出した。


    7

 あれ、沙紀ちゃんと神内じゃあないかな?彼の目に手をつないで歩いていくカップルの姿が見えた、やっぱりそうだ、彼はその事に気づいていないように振舞いながら連れの顔を見た。
 ・・・連れは幸いにも気づいていないみたいだ、もし気づいてたらあの二人の時間はメチャクチャになりかねない・・・
 陣、悪いけどこの時ばかりは沙紀ちゃんと神内の味方をさせてもらうよ、普教連所属三等陸曹・桐生結城(きりゅうゆうき)は内心そう思った。
 「なあ、桐生」
 連れの陣が口を開いた。
 「うん、どうしたの陣?」
 桐生が返答した
 「気のせいかもしれんが今、沙紀がいなかったか?」
 くっ、陣やはり気づいてたんだね・・・
 「桐生、ほらそこ歩いている浴衣姿の」
 彼が指差す方向にいたのは間違いなく天宮と神内の二人だった、幸いこちらに背を向けているためはっきりとはわからない。
 「違うよ陣、さっき一瞬顔をみたけど違う人だったよ、人をじろじろ見てると失礼だよ、さ、もう忘れて何か買って食べようよ、お腹も減ったし」
 疑いの目で二人組を見ている陣にたまらず桐生は声をかけた。
 しかし、桐生の彼なりの心遣いも知らずかその時天宮と神内はなんと自分達からこちらに向かって振り向いてきた、どうやらたこ焼きを買うつもりらしい。
 あちゃあ〜っ、思わず桐生は天を仰ぎ右手で額を叩いた、間が悪いにも程がある。
 仲良く手をつなぎながら笑顔でしゃべっている二人からは、一緒にいるだけで幸せという思いがにじみ出ていた。
 「陣・・・本当に楽しそうだね、神内も沙紀ちゃんも、幸せだろうね・・・」
 陣はなにも答えない、ただ無表情に二人の姿を見つめているのみだ。
 「だから・・・今日はこのままにしてあげようよ陣、二人きりにさせてあげようよ、な?」
 桐生は、まったくこちらに気づく様子もない二人の姿を見ながらまるで陣に諭すそうに自分の願いを伝えた。
 その時、陣が口を開いた
 「・・・だと」
 うん?小声で聞き取れなかった、聞き返そうとした時、陣が爆発した!
 「二人きりだとぉぉっ!神内の野郎っ、沙紀に何をする気だ!」
 「いや、たこ焼き買ってあげただけだと思うけど・・・」
 そんなもっともな言葉も今の陣には聞こえない。
 「桐生、あっちには何があったか?」
 「噴水広場だけど・・・」
 力なく桐生は答えた。
 「チッあの野郎!」
 だから一体何がっ!桐生は狼狽した。
 「いくぞ、桐生」
 「だからさぁ・・・やめようよ、陣ほんとに大人気ないよ、それに二人とも子供じゃないんだし」
 「自分の妹がだぞ目の前で男に食べられちまうかもしれないって思えばこんな気持ちにもなるぞ、絶対」
 「男って、神内でしょう、陣や僕が前期教育で鍛え上げた部下じゃないか、それとも陣は自分が育てた人間を信用しないの?そうなのか」
 桐生が陣を問い詰めるようにそう言うと陣はぽつりと言った。
 「・・・ちげーよ、神内を信用していないわけじゃない、ちと言い過ぎだった・・・でもな兄としては複雑なんだよ、沙紀が初めて付き合う男が、よりによってまさか自分の教育隊時代の班員とは思いもよらなかったぞ・・・」
 確かにそうだろう、僕も二人が付き合っていると聞いた時には驚いたからね。
 「でも、いいじゃないか、結果的には沙紀ちゃんもあんなに幸せそうなんだから、陣は一体何が不満なの?」
 「そうだな・・・やはり俺を一撃で倒せるような人間であってほしい・・・そして沙紀に万一のことあったら命に引き換えても沙紀を守ってくれる人間でいてほしい・・・それだけだ、その二つ、いや後者だけでも神内が満たすなら俺はもう何も言わない」
 「陣・・・恐ろしくハードル高いね、それってもしかして体のいい拒否じゃないよね?」
 桐生は少しあきれながら言った、いくらなんでも厳しい、ひょっとして陣は沙紀ちゃんを一生独り身にしておきたいのかも、桐生はそう思った。
 「沙紀の一生に関わるかもしれない事だからな、こればかりは妥協するわけにはいかないだろう」
 ・・・まああれだけ可愛い妹を持つと人間だれでもそう思うようになるのかも知れないけど・・・一人っ子だった僕にはわからない感情だなと思った。
 陣は軽く息を吐くと桐生に言った。
 「わかったよ・・・桐生、今日は邪魔しないでやるよ」
 「うん、その方がいいって・・・じゃあ行こうか陣」
 「まて桐生!」
 いきなり桐生は陣に止められた。
 「邪魔はしないが後はつけるぞ」
 お願いだから・・・勘弁してよ
 「ねえ陣、それってストー・・・」
 「なにか言ったか桐生?」
 「いいや、別に」
 な・なんだ、一瞬殺気まで感じたよ、怖くて後を続けることができなかったよ・・・
 「じゃあいくか、わかってるとは思うが見つからないように気配は消せよ」
 ごめんね沙紀ちゃん、神内、陣を止めることができなかったよ、どうか許してね。桐生は二人に謝った。
 「はいはい・・・もうわかってますよ・・・」
 ねえ陣、状況わかってる?だってこれ人には決して見せられない姿だよ、自衛官二人組自分の妹に対してストーカ行為を行なうの図・・・もうこれ以上ないくらい最低の姿だよ。
 そして桐生は決して口には出せない一言を新隊員時代からの戦友の三等陸曹・天宮陣に対し心の中で発した。


 『この、シスコン男めっ!』


    「お祭り」 前編・終


    あとがき


 今回、お話が長くなったので前編と後編に分け前編だけアップしました。
 神内と天宮沙紀のカップルは周囲の人達に祝福をもって認められているんですが、沙紀の兄、天宮陣だけは認めてくれないんですね。 実は沙紀の両親も妹も二人の仲を認めてくれているのに、兄バカとでも言うんでしょうかね、これは。
 後編は今から書きます、それでは